「逆風の中で、声を掛け合って支え合い、励まし合おう」心が震えた“伝説の”ソーシャルグッド・カタパルト【ICC KYOTO 2021レポート】 | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

「逆風の中で、声を掛け合って支え合い、励まし合おう」心が震えた“伝説の”ソーシャルグッド・カタパルト【ICC KYOTO 2021レポート】

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9月6日~9日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回のテーマは、最終日のSession11で開催され、今回のICC中一番の盛り上がりを見せたピッチコンテスト「ソーシャルグッド・カタパルト – 社会課題の解決への挑戦 -」です。12組の社会起業家のプレゼンとともに、冒頭のユーグレナ出雲 充さんの呼びかけから、ヘラルボニー松田 文登さんの涙のスピーチまで、ほぼノーカットでお送りします。中継映像も合わせて、ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


今回のソーシャルグッド・カタパルトは、後々まで言及されるような伝説的な場だったと、その場にいた誰もが言うに違いない。

その場だけでなく、おそらく中継、映像を見た人たちの心をも大きく揺り動かすような、当事者の熱が伝わり胸を熱くするような、そんな場であった。審査員も、優勝賞品提供者も、見ていた人たちも、みんな泣いていた。自分も何かしなければいけないという意識が芽生えるような場であった。

会場運営スタッフとしてではなく、この日はナビゲーターとして登壇するe-Educationの三輪 開人さんは、開口一番に声を張り上げて、会場の空気を一変させた。続いてマイクを握ったユーグレナ出雲 充さんの魂の叫びのような言葉に会場はショックを受け、孤軍奮闘のような戦いを続ける登壇者たちを心から応援しようという気持ちになった。

コロナ禍の日本において後回しとされるような事業であっても、人間性や社会をあるべき姿にする歩みを決して止めてはいけない。そんな当事者たちの覚悟と取り組みに心の底から賛同し、熱狂する人たちの姿がそこにあった。登壇者たちはその反応に驚きながらも、比較的に冷静だったのが、逆にリアルだった。

開始前の会場で

ソーシャルグッドの登壇者たちは、本番プレゼン直前でもあまり緊張している様子ではないのが、彼らが通ってきた道の困難さを物語る。今までどれだけの人たちに伝え、一体どれだけ聞き入れられたのか。賛同は得られても、はたしてそのどれだけが実際に力となったのだろうか?

ナビゲーターの三輪さんは、それを知っているかのように、全登壇者、優勝賞品の提供者、審査員の方々にカタパルト開始前に挨拶をしている。全てのネジを点検するかのように、確実に仲間を増やすために、一人ひとりに熱意を伝えている。

 

登壇するOUIの中山さんや、獺祭を賞品提供する櫻井さんと話す三輪さん

カタパルトの開始時間が近づき、前回の「ソーシャルグッド・カタパルト」で胸を打つ審査員コメントをした出雲さんに一言いただきたいと思い、いち早く席に着いている姿を見つけて話を聞きに行った。

▶前回のコメントの書き起こし文はこちら
2. 資本主義と異なる価値感を持つソーシャルセクターが、事業を成功させるためには

出雲さん「今回はすぐ終わると思っていたコロナが収まらない中で、ますますソーシャルグッドは逆風だと思う。大変ななか集まっている人たちを、お互い、このICCという場で支え合う、応援する、励まし合うということが、一番大事なタイミングだと思います。

だから今日も思い切り、登壇者を頑張れ!応援してるぞ!というのを一生懸命伝えたいと思っています」

出雲さんが考えながら、次の言葉を言おうとしたその時、ナビゲーターの三輪さんがやってきた。急遽登壇をお願いしている。すぐに出雲さんは舞台の袖に移動して、あと10分足らずとなったカタパルトの開始を待つことになった。

出雲さんに登壇依頼をする三輪さん

ここからの当日の模様と、その盛り上がりは中継動画のアーカイブを見て体験いただくのが一番だが、このレポートではカタパルト前後の登壇者のコメントを含めて、当日の熱気をお伝えしたい。

ライブ中継アーカイブ映像はこちら

ソーシャルグッド・カタパルト開幕

三輪さん「おはようございます! ICC 3日目、最後のカタパルトが始まります。

僕、もう本当に昨日ワクワクして眠れませんでした。嬉しくて、そしてちょっとだけ悔しくて。僕はこのソーシャルグッド・カタパルトこそ、ICC、Co-Creationに一番近いと思っているんです。

社会の課題は、一人じゃ変えられないんです。みんなで力を合わせるから解決できる。みんなじゃないと解決できない問題ってたくさんあるんじゃないかなと思っています。

前回ナビゲーターとして初めてここに立たせてもらいました。会場にいらっしゃる方は、もっと少なかったです。

でもちょっとだけ後ろを見てください。

前回審査員をしていただいた皆さんなら分かっていただけると思います。後ろの席にはほとんど誰もいなかった前回から一転、どんどん人数が、仲間が増えています。『前回楽しかったよ』『面白かったんだ』と、審査員の皆さん、前回から協力をいただいている皆さんから声をかけていただいたおかげです。

このソーシャルグッド・カタパルトをもっともっと盛り上げていくために、今日参加いただいているすべての皆さんが仲間になって、共犯者になって、このカタパルト、共創プログラムを一緒に作っていただければと思うので、今日はよろしくお願いいたします!」

そして三輪さんは、スペシャルゲストとして、出雲さんを舞台に呼び込んだ。

「ここが最後の、最後の砦」

出雲さん「この話は何度でもしますし、何度でもしなきゃいけないし、今日は本当に話したかったんです。

なぜならアメリカはソーシャルグッド・カンパニー、ソーシャルグッド・スタートアップをコロナで応援する人が増えて、そういうところに回ってくるお金が増えたんですね。

中国もソーシャルグッドカンパニーに対する支援と応援とそのリスクマネーが増えました。イギリスも増えました。フランスも増えました。世界中コロナでソーシャルグッド、これに関わってる人を応援するというムーブメントとリスクマネーの供給額が増えたんですね。

コロナ下でも米中スタートアップ投資が活況 – 日本経済新聞(2021年1月17日)

日本だけが、コロナで、ベンチャー企業とスタートアップと、ソーシャルグッドのアクションを起こしてる人に対する、応援するリスクマネーが世界で唯一、日本だけ減ったんです。

いや、こういう国なんですよ。それに文句を言っててもしょうがないですよね。

でも2025年、2025年にはソーシャルグッドがやりたい。

お金儲けじゃなくて、社会を良くするために自分は生まれてきたんだっていうことに意義を感じる、1980年以降に生まれたミレニアルとZ世代が、2025年には社会の中核になるんです。

15歳から64歳までの生産年齢人口は、今はほんとにちょっとしかいません。その世代の皆さんは社会を良くしたいと言っても、『えっ、なに言ってんの?』と言われて、全然応援されていないと思うんですよ。

生産年齢人口とは 経済・社会保障支える(日本経済新聞)

あなたの、君の活動は、『今はコロナなんだから、もうそれどころじゃない』と、『今みんな困ってるんだ、そんなの後回しにしろ』と言われて、大変な思いをソーシャルグッドのみんなはしている。

そんなみんなを、2025年までに1人も欠けることなく、頑張ろうっていう気持ちを持ち続けるために、今日はもう意地でも応援して、支援して、支えて、勇気づけて、頑張ってねっていうメッセージを込めたいなと思って来ています。審査員の人はみんなそういう思いで来ているんですよ!

だから今日参加者で聞きに来てくださっている皆さんも、みんなで頑張って応援して、その拍手の音が大きすぎて、この天井が落ちてくるぐらい、拍手しましょう。

今一番つらい、頑張っている人がこの後カタパルトで次々と出てきます。

ICCの場は、一緒に頑張っている仲間がここにいるんだと、応援し合って支え合って、支援し合う、そういうコミュニティにしたい。徹底的に支えて、みんなで元気づける、勇気づけるっていうことをやりましょう。

今日本に一番足りていないものが、ソーシャルグッドを頑張っている人を応援するというアクションです。ここが最後の、最後の砦なんですよ、本当に。世界で一番大変なところで頑張っているみんなを徹底的に励まして、勇気づけて応援し合いましょう。今日はよろしくお願いします!」

叫ぶように、同じ言葉に何度も力を込めて繰り返す、出雲さんのスピーチを引き取って、三輪さんが続ける。

三輪さん「今、出雲さんからもあったように、われわれ全員がエールを送ることが社会課題の解決の一歩になると思っております。なのでICC恒例の拍手を登壇者の皆さんに送りたいと思うので、よかったら全員ご起立ください。

今回この会場に来れなかった方がいらっしゃいます。ご家族がコロナになってしまって、悔しい思いで来れなかった方もいるんです。でももしかしたら今回の映像、ライブ配信で届くかもしれません。ここに登壇する方のみならず、すべての社会課題を解決する人たちにエールを送るつもりで、よかったら最大の拍手をお願いします!」

万雷の拍手に、三輪さんが感謝を述べると、出雲さんは、三輪さんにも、運営スタッフにも拍手を贈るように促した。

続いて優勝賞品が旭酒造サツドラヘラルボニーパンフォーユーから紹介されたが、いずれも出雲さんのスピーチに大きく心揺さぶられ、賞品提供に込めた想いを語った。驚くほど涙していたパンフォーユーの矢野さんは、以前に地域活性のNPOをしていた頃が思い出されたという。

すでに最高潮の盛り上がりとなった会場だが、ここからが本編。プレゼンの書き起こし記事は別途ウェブサイトですべて公開していくため、ここでは登壇前後にうかがった話を登壇写真とともにご紹介していきたい。

【machimori】地域から、熱海から、社会を変えていく

machimori市来 広一郎さん

machimoriの市来 広一郎さんは、ICCになんと5年ぶりの登壇だ。

【保存版】熱海の街づくりを変革する「machimori」(全4回)

熱海の町おこし・街づくりに携わる市来さんだが、ご存知の通り熱海は今年、土砂災害のニュースで注目を集めることになった。

「先日の土砂災害から熱海はまだまだ復旧に至っていない。被災された方はまだ避難所にいる。それを含めて課題は山積みですが、模索しながらポジティブに動いている方もいて、私たちがやれることはある。

5年前に、やると言ったことの成果が少しずつ出てきたので、今回はそれを話したいと思います。みなさんに来てもらい、熱海を使っていただきたい。そして地域から社会を変えていくことに協業していただきたいと思っています。

若い方にもたくさん来ていただいていて、街を使っていろんなことをやっていただくのに、すごく面白い場所じゃないかと思います」

衰退から一転、「熱海の奇跡」が実現した舞台裏を、再生キーパーソンに聞いてきた ―街づくりと観光の連動から「関係人口」の創出まで(トラベルボイス)

10年かけて再生に取り組んできて、その果実が実り始めた矢先のコロナ禍と自然災害。とはいえ街再生から地域再生という高いゴールを目指す道のりで、足腰を鍛えてきた10年の積み重ねがあり、未来を語る市来さんの言葉に暗さはない。

民間主導のまちづくりで、熱海から持続可能な地域社会をつくる「machimori」(ICC KYOTO 2021 )【文字起こし版】

【ジャパンモスファクトリー】苔で取り組む環境浄化

ジャパンモスファクトリー 井藤賀 操さん

前回はリアルテック・カタパルトに登壇したジャパンモスファクトリーの井藤賀さん。液体や大気中の有害物質を吸着する苔で環境改善素材を作り、環境浄化に貢献する。材料となる苔は、「温室効果ガス」ともいわれる二酸化炭素ガスを吸収して育つ。

「私たちは廃鉱山の浄化を古くからやっていて、当初は事業会社と一緒にやっていました。ビジネスモデルに落とすところは難しくて、気が遠くなるほど時間がかかるのですが、プレゼンでは技術としてこういうことができるとお伝えしました。

今日は社会課題を解決するというところで、他の方のプレゼンを見ながらすごく考えさせていただきました」

【BABYJOB】女性は大変、育児も大変。その無意味なタスクを少しでも減らせたら

BABYJOB上野 公嗣さん

BABYJOBの上野さんは前職はユニ・チャームで生理用品に携わり、現在は子育て世代の課題に取り組む。「保育所を作ったらママは楽になるかと思いきや、見送りに来るママの顔が疲れている」ことに気づき、保育所の運営とともに、10年後には子育てが楽しいといえる世界の実現を目指している。

「まずは保育施設におむつが届くサブスク『手ぶら登園』を伝えたいです。今、保護者は保育所に、おむつに名前を書いて持っていかないといけません。そして排泄済みのおむつを個別にして、全部持って帰らせます。これがなかなか大変なのですが、戦後からずっと変わってこなかったんです。

スーパーやドラッグストアのゴミ箱に、よく『おむつを捨てないでください』と書いてありますが、それは持ったまま買い物をするのが嫌だから捨ててしまうのです。

一方、僕らが保育所にサービス紹介の電話をすると『何も困ってません、保護者が持ってきて帰ります』と答えるところがほとんどで、保護者も一時の我慢なので、忘れてしまう。課題が顕在化していないのです。

でも導入してみると、両者ほぼ100%の満足度です。保育士はオペレーションよりも、精神的なやりとりの負担が大きく減ります。あまたあるママのタスクから、解放されます。子どもに接する以外のタスクを1つずつ取っていきたいんです。

女性は明らかに大変ですよ。育児ってどう考えても大変です。女性の社会進出と言われても、そのインフラを整えないと、そんな状況で管理職になるんだと言われても難しいですよね」

おむつのサブスク「手ぶら登園」から、すべての人が子育てが楽しいと思える社会を目指す「BABYJOB」(ICC KYOTO 2021)【文字起こし版】

【マツリズム】祭りの楽しさ、地域の祭りを絶やさぬように

一般社団法人マツリズム 大原 学さん

生きる歓び、地域の祭を絶やさぬために! 祭を通じて地域活性化や人材育成を図る「マツリズム」(ICC KYOTO 2021 )【文字起こし版】

始めと終わりの一本締めで、会場を盛り上げた大原さんは”マツリテーター”。都会の若者が地方の祭りに参加できるプログラムを運営してきた大原さんは、コロナ禍で祭りがなくなって、登壇オファーがあったとき、事業の岐路に立たされていたという。

「最初にお声がけいただいたときに、本当に迷いました。ほぼ断ろうと思っていたんです。ここで何を伝えるのか、私が何を提供できるかわからなかったし、6月の時点でマツリズムという法人をやっている自信がなかったんです。

それを妻に言ったら、断るなら今マツリズム辞めちゃいなよと言われて、あ、すみません、やりますと(笑)。

結局登壇することにして、この1カ月整理をするなかで、ここに立つ意味を考えました。

マツリズムを知ってもらうのもそうですが、それ以上に、祭りが立たされている状況や、それを地域で守っている担い手たちの声を少しでも代弁して、ちょっと目を向けてもらえればいい。事業よりも、祭りに注目していただきたいという想いが強くありました」

大原さんはこの前日に「荒れ狂う心を忘れないために」南禅寺で滝行を行ってきたといい、写真を見せてくれた。6位入賞に喜び、「名刺交換した方に、楽しかったですと言っていただけたのが一番うれしくて」と笑顔。最後の一本締めで打ち鳴らした拍子木は、円山公園で練習したそうだ。

【農スクール】10年間引きこもり、3カ月話さなかった若者の笑顔を引き出した農業

NPO農スクール 小島 希世子さん

働きたくても働けない人への就農支援を通じて、農業と人の未来を応援する「農スクール」(ICC KYOTO 2021)【文字起こし版】

引きこもりや、ホームレス状態になった人の就農支援で、社会復帰をサポートするのはNPO農スクールの小島 希世子さん。著書『農で輝く! ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』には、農業プログラムを経て、就農するようになった人たちの再生の物語が紹介されている。最近農スクールで驚いたことは?と聞いた。

「最近でいうと、10年ぐらい引きこもっていて、プログラムを始めても3カ月間話さなくて全然笑わなかった20代後半の人が、めっちゃ笑ったんです。みんなで農作業をしているときで、作業中は離れているのですが、みんなが、彼、笑うんだ!って、すごく感動したんです。

都内のホームレス支援団体とか、自治体にもプログラムを入れていて、インターネットで主に勧誘していますが、そこでは助けてあげますよとか、待っているから来てではなくて、あなたは日本の農業を支える1人の農業者になれるポテンシャルがあるから来てみませんか?というメッセージを伝えるようにしています。

助けてもらうことに、気が引けて来られない人もいます。逆に農家にとっては働き手が来るので助けてあげることでもあります。

就農して独立した人は、2020年で80%ぐらいいて、結構すごいと思っています。最初の3カ月は写真を撮らず、外部の人も入れないのでビフォーアフターが出せないのはつらいですが、みんなぐんぐん顔つきが変わっていきます。作業に入って、半年で就農できるようになっていきます。

就農者が減り続けている農業の現状や、ちょっとしたチャンスがあれば、働きづらいと思っている人でも、1人の農業者としてバリバリ働けるということが伝わればいいなと思っています」

【Go Visions】子どもが主役の「学び場」で未来に希望を届ける

Go Visions 小助川 将さん

アウトプットから始まるオンライン教育「SOZOW」で、子どもの可能性を拡大する「Go Visions」(ICC KYOTO 2021)【文字起こし版】

小助川さんは、既報の通り今回優勝を飾った。その事業にかける想いを余すことなく伝えるために、カタパルト開始前は会場の外で一人、何度も何度もプレゼンのリハーサルを繰り返していた。終了後に聞くと「ギリギリ7分で収まらなくてどうしようかと思っていた」と言う。

登壇を終えての感想は後ほど紹介するが、プレゼンでは「学校に合わせられない子どもに問題があるのではなく、社会に障害がある」と、150年同じままの教育システムに疑問を提起して新しい学びの場「SOZOW」を作り、子どもの可能性が開花する例を積み上げている。この実績は、未来をつくる子どもたちが輝く糧となっている。

【ADDS】大学1年の4月に出会った「療育」。他の道は考えなかった

特定非営利活動法人ADDS 竹内 弓乃さん

「学習障害のサポートを知ったのは、大学1年生でアルバイトを探していたのですが、言葉に遅れがある子どもに遊びの中で言葉を教えるアルバイトに興味を持って申し込んだら、自閉症の子だったことからです。

アメリカに住んでいたご家族で、息子さんが自閉症の診断を受けて療育支援を利用していたんです。息子さんが4歳になる直前に帰国したのですが、効果があることを実感していたので続けたい、そこで近所の大学の学生を雇って、息子さんのセラピストに育てちゃおうと思ったそうで、それに応募したのが私でした」

明るく話す竹内さんは、その時から療育、障害のある子どもの発達支援を続けている。大学ではゼミの指導教授にも恵まれ、同じラボの仲間とADDSを起業した。

「支援は年齢が上がってもできるのですが、小さい時期は特に、脳がスポンジのように吸収できるし、コミュニケーションのパターンが出来上がる時期なので、その時期に教えることで行動が変容しやすいんです。

始めた当時は『療育』という言葉すら誰も知らない状態で、『療育センター』はあったのですが、個人レベルで質の高い情報を取り入れてやっている方はごく少数いても、一般的にはまったく浸透していなかったです。

療育センターとはどんな施設?児童福祉法における役割、対象、利用方法と費用などをご紹介します(りたりこ発達ナビ)

そのご家庭がネットワークを持っていらして、うちにも来てほしいといっぱい紹介いただいて、学部生のころは15家庭ぐらい持って、週8でバイトしていました(笑)。

それに大学生活を捧げていましたね。大学1年の4月にこれに出会ってから、ずっとです」

PCやプログラミングに興味を持つ発達障害の人は多く、知的障害のある作家の作品で新たな文化創造を目指すヘラルボニーの松田さん(前回ソーシャルグッド・カタパルトで優勝者)にプレゼンを見てもらえるのが嬉しい、と語った。

エビデンスに基づく早期支援で、発達障害のある子どもが自分らしく学び暮らせる社会を目指す「ADDS」(ICC KYOTO 2021 )【文字起こし版】

【OUI Inc.】生まれた場所に左右されない医療を届ける

OUI Inc.中山 慎太郎さん

「OUI Inc.」は、スマホでできる眼科診断で、世界の医療過疎地の患者を失明から救う(ICC KYOTO 2021)【文字起こし版】

中山さんは前回リアルテック・カタパルトで優勝したOUIの途上国支援のフロントを担う。国際協力銀行、国際協力機構、三菱商事にNPO法人クロスフィールズ、2019年ラグビーワールドカップのアルゼンチン代表通訳を経て、現在の仕事が一番楽しいと、プレゼンからもポジティブなパワーが漲っていた。

「ソーシャルグッド・カタパルト、めっちゃ熱いですね! 海外の事業をしているのが僕しかいないので、そういう世界の代表のつもりで、お伝えできたらなと思ってプレゼンしました。

僕も途上国の仕事をずっとやってきたのですが、目のことってあまり気づかないですよね。小さいころに失明してしまう子どもたちがたくさんいるなんて、僕も知らなかったんです。めちゃくちゃやりがいのある事業だと感じています!」

【アグベル】担い手不足、耕作放棄地。よりサステナブルな農業への挑戦

アグベル丸山 桂佑さん

クラフテッド・カタパルト、マルシェ・アワードに続いて、初参加ながら連日出番が続くぶどう農家を営むアグベルの丸山 桂佑さんは、このソーシャルグッド・カタパルトでは、農業の未来を築くための課題を伝えようとしている。

「担い手不足や、耕作放棄地を再生していくこと、よりサステナブルな農業を作っていこうとしていることを伝えたいです。

基本的には放棄地を借りるのですが、なかなか一筋縄ではいかない。僕はまだ地元で農家をしているのでご理解はいただけるかなと思うのですが、地権者は、本当にしっかり農業してくれるのか、管理をしてくれるのかというところを見ています。

僕らがフロントになって、雇用している新規就農者がいずれやる畑にしていきたい。

今回ICCに持ってきた新しいぶどう、スカーレット(プレゼン中にも配布)が市場に出回るのは、おそらく早くて来年。まだ国内にも10人ぐらいしか作っていないぶどうです。

新しい品種が世の中に出るときは、国に定められた苗木を作る施設で研究開発をしていて、テストとして何人かの生産者に苗木を配布して生産します。ぶどうが成るまでは3年かかるのですが、納得できる味になるまで育てていきます。

海外への品種の流出で、従来の種苗法が見直されてはいているのですが、日本の農業はすごい技術を持っているので、いずれは自分たちでも新種を作ってライセンス事業をしていきたい。日本農業の内藤さんは同級生なのですごく共感していて、輸出も一緒にやっています。

“美味しさ”と“知財”で世界を驚かす農業を!「日本農業」の挑戦(ICC KYOTO 2019 カタパルト・グランプリ)【文字起こし版】

農業って本当に広いのですが、ICCに来るといろんな業種の方がいるので、すごく勉強になります。GRAの岩佐さんと今回仲良くなって、今度一緒に釣りにいくことになりました(笑)」

【フィッシュ・バイオテック】サバの可能性を追求して、社会に貢献する

フィッシュ・バイオテック右田 孝宣さん

「フィッシュ・バイオテック」はサバの生食文化を創り、「陸上養殖」で人・自然・サバに優しい漁業を目指す(ICC KYOTO 2021 )【文字起こし版】

前回スタートアップ・カタパルトで優勝を飾った右田さんは負けず嫌い。生食できるサバをテクノロジーを使いながら、環境に配慮した形で量産することで、食糧不足やフードロスなど、複数の課題の解決に取り組んでいる。4位に入賞したものの、事業の正当性を誰よりも信じているため、悔しさが残っている。

「次に出る機会があったら、グランプリ獲ります! いろいろやりたいことが形になるには、あと1年ぐらいかかるかな。ソーシャルのところがまだちゃんとできていないんです。

今後は新大阪の都市型陸上施設や、静岡の道の駅などでサバを釣って食べられる施設を予定しています。できれば来年の夏休みごろにオープンを狙いたい。『体験』をアクティブにしていく予定です」

食育的な側面も期待できそうな新施設で現在大忙しの様子。サバ博士に感化されたわけではないが、サバの可能性恐るべしである。

【ORANGE kitchen】医療費削減を阻む課題に、予防事業で取り組む

ORANGE kitchen若子 みな美さんは、前回のスタートアップ・カタパルトから舞台を変えての登壇。国家財政を圧迫する国民保険費の中でも、高額医療である透析治療の患者を減らすための事業を行っている。自治体との取り組みも始まっているが、構造的な問題に直面しているという。

ORANGE kitchen 若子 みな美さん

「日々自分たちの事業に夢中になってしまいますが、ICCはすごく俯瞰できる機会。スケジュールびっしり入れて、さまざまなセッションを見ています!」と声を弾ませるが、生活習慣や無関心といった難敵に立ち向かい、国家財政に関わる課題に取り組んでいる。

「社会課題を解決するには、何かしら制度やルールに向き合っていかないといけない。我々としては、その課題をしっかり伝えて、いち事業者としての限界も含めて正直にお話ししたいです。

自治体との取り組みを進めていくなかで、改めてわかる課題や、こういうところが進まないという課題が大きく2つあることがわかりました。医療費の問題は、日本・厚労省としては医療費を下げたい。だから自治体に医療費を下げる予防事業をやってくれといっています。

自治体としてはコロナもあって、日々の業務に追われてマンパワーを割けない。そもそもかかった医療費は払ってきてなおかつ足りなくなったら、国から補助金が出るので、医療費を下げようというインセンティブになっていないんです。でも国から言われているから予防事業もやっておこう、という程度。

もう1つは、今の事業の本質的にやっている病院の受診勧奨では、対象予備群の予防にはつながらないということです。そこを自治体を説得したり、どうすればみんなにとってハッピーな予防の事業ができるかを、お医者さんも交えてやりたいのです。

とはいえ現状の仕組みがあるので、制度から考えていかないといけません。内閣府の事業連携候補に選んでいただいたので、戦略特区から、規制改革、制度改革を進めていけたら」

【ホープインターナショナルワークス】ファッションのアップサイクル事業で、職人と技術を継承

ホープインターナショナルワークスの髙村 三礼さんは、会場に向かうなか事故渋滞に巻き込まれたため、会場にはリハーサルにぎりぎり間に合う到着となり、登壇は最後のプレゼンターとなった。

この日髙村さんが着ていたのは、20年前の服をリメイクしたもの。捨てられない想い出の服をぬいぐるみや服にするなど、アップサイクルで廃棄衣料をゼロにすることを目指し、同時に心斎橋の中心地に最先端の縫製を学べる場を作り、縫製技術や文化の伝承、職人や雇用の創出を図っている。

ヘラルボニー松田さんの原点となる作文

12人全員のプレゼンが終わると、前回優勝者のヘラルボニー松田 文登さんによるプレゼン。松田さんはオープニングと、このプレゼン、優勝者への授与セレモニーでも登壇し、それぞれに心に残る話をしたが、ここで松田さんが紹介したのは、小学4年のときに書いた「障害者だって同じ人間なんだ」という作文だ。

実兄が、自閉症スペクトラムという先天性の障害を持って生まれ、兄に対する世間の目が事業を起こすモチベーションとなった松田兄弟だが、小学4年生にして根源となる考えが確立していたこと、またそう育てた家族の素晴らしさに胸を打たれずにはいられない。

この場では、ヘラルボニーが紹介したアーティストの一人、小林 覚さんの月収が50万円に達したことも語られた。そんな未来が実現することは、始めてみなければ、やり続けてみなければ、達成できなかったことだ。

「福祉×アート」の社会実装で、障害に対する意識を変えていく「ヘラルボニー」(ICC FUKUOKA 2021)

審査員「プレゼンを聞いて、自分も頑張ろうと思った」

食べチョク 秋元 里奈さん「私は食の業界なので、一次産業は共感する課題も多かったんですが、他の領域はあまり普段接することがないので、見えていない課題がこれだけいっぱいあるんだなと、胸を打たれる、衝撃があるようなプレゼンがたくさんありました。

短期的に成果を出されている方も、10年ずっと取り組まれてきて、少しずつ成果が出てきてこれからという方もいらっしゃったので、皆さん本当に強い想いを持ってやられているんだなと、私自身も元気をもらいましたし、頑張ろうと思いました」

一平ホールディングス 村岡 浩司さん「私自身は食の仕事ですが、この1年半、壊れていった自分の事業や自分の愛する街の風景とか、そういうものを思い浮かべながら、皆さんの事業に重ねながら聞いておりました。

今日この舞台に立つまでに長い時間をかけて一歩ずつ歩んで来られた皆さんに、心からの尊敬の念を抱きますし、まだ発展途上でも目の前の社会課題に力強く取り組んでいく、絶対社会を変えていくんだという強い信念に胸を打たれて、私自身も皆さんの仲間の一員になれるように頑張っていこうと感じました」

Mobility Technologies 川鍋 一朗さん「ICCのセッションで泣きそうになったのって、初めてな気がします。お祭り(マツリズム)はもちろん暑苦しいんですけど(笑)、どれも皆さんいい意味で暑苦しいなあと思いました。

みんな喋り始めたときはなんとなくおどおどしていましたが、最後のほうは、”世界は俺を中心に回ってる”って感じだったので、多分皆さん大丈夫だと思います!

自分はやっぱり家業なので、三代目のマスカット王子(アグベル)、三代目で29歳で付近の農家60軒集めたって、これすごいことだと思うんですね。 家業が頑張れば日本は明るいと思ったり、生のサバも食べてみたいけど、まあ前澤(友作さん、フィッシュ・バイオテックの出資者)さんがついているからもう大丈夫かなとか(笑)。

しおみる(ORANGE kitchen)さん、日本交通もタクシー会社で高齢者を抱えた健康保険組合を持っていたので、まさにもう本当にその通りだと思います。でももうちょっとそこは行政、頑張んなきゃダメですね。苔(ジャパンモスファクトリー)もすごいなとか、いろいろ思いました。皆さん一緒に頑張りましょう!」

新公益連盟 白井 智子さん「初参加だったのですが、本当に何度も目頭が熱くなりました。こうやって話していても、感動が蘇ってきます。

登壇者の皆さんは、すごい変わり者ばかりだと思うんですよね。 この会場にいらっしゃる皆さんもそうだと思うんですが(笑)、どなたかおっしゃっていたように、これからの時代って人と違うことが絶対強みになってくると思います。

みんなと同じがたぶん通用しない時代になってくるのですが、まだまだそれが世の中には浸透していない。子どもたちや保護者に伝わっていなくて、合わないところに一生懸命はまろうと努力して、つぶれていく子ども達をたくさん見てきました。

皆さんの熱いプレゼンを聞いていて、ここから本当に世の中変わっていくんじゃないか、ここから助かっていく子ども達も沢山出てくるんじゃないかっていうことを本当に感じました」

マザーハウス 山崎 大祐さん「今、僕はすごい悔しい気持ちです。ここに来ると、いつもそうなんですよ。

本当にやるべきことがいっぱいある。 今、世の中はソーシャルとかみんな普通に言うんですよね。どんな企業も言い始めているじゃないですか。

でもここにいる人たち、やっぱり全然違う。なんで違うんだろうなと思った時に、やっぱりすごいリアルにみんな自分の手で感じてるんですよね。

自分の人生の物語があって、それを多くの人に届けなきゃいけないって思っている。だからテクノロジーとかビジネスモデルとかがある。全員のメッセージがすごく腑に落ちて、僕は色々なビジネスコンテストの審査員とかをやってますけど、ここのが一番美しくてかっこいいですよ。本当に。

こういうビジネスが絶対世の中に広がってほしいって、僕は改めてすごく強く思いました。いつも本当に勇気をいっぱいもらってるんですけれど、僕も頑張ろうと思いました。ありがとうございます」

出雲さんは「励まし合おう、支え合おう」と冒頭呼びかけたが、逆に登壇者たちからパワーをもらった審査員たちは、口々に感謝を伝えた。その場にいた人たちも大きく頷いている。後日、「気合いを入れたいときに、このカタパルトの動画を見る」と運営スタッフも言っていたくらいである。

入賞者は6名、優勝は「Go Visions」に決定

どの事業も素晴らしく、順位をつけられるものではないのだが、こうしてコンテスト形式で開催することで、プレゼンが磨かれ、自分の事業を見つめ直すという人も多いと聞く。入賞は6名に決まった。

【速報】子どもの好奇心に火をつける!新しい学び場「SOZOW」を提供する「Go Visions」が審査員号泣のソーシャルグッド・カタパルトで優勝!(ICC KYOTO 2021)

 

「ビジョン実現のために、この優勝を擦り切れるまで活用する」

優勝は「Go Visions」となった。

マイクを受け取った小助川さんは、すぐに「ありがとうございます」と言い、音声が変だなとマイクを確認したがマイクは問題なく、上ずっていたのは小助川さんの声のほうだった。見ると目に涙が浮かんでいる。

「伝えたいことが、2つあります。1つは本当にこのコロナ禍で、こういう素敵なイベントを開催いただいている ICCのスタッフの皆さんやホテルの皆さんに本当に感謝を述べたいです。あとはチームのみんな、家族だったりとか、本当にいろいろな方の協力をいただいていますので、その人たちへの感謝がまずは第一に浮かびます。

2つ目なんですけれども、優勝を実は狙っていました。

なぜかと言うと、150年続く教育システムへのチャレンジは、『できるの?』とよく言われるし、すごく馬鹿にされるのですが、カタパルトで優勝すれば、そのビジョンを実現するためのひとつの武器になると思っているからです。

絶対に優勝を獲って、この武器を擦り切れるまでというか、ビジョン実現の手段としてどんどん活用させていただきたいと思っております。

本当にもう待ったなしの状況で、子どもたちが置かれている今の状況を見ると、苦しんでいる人たちが増えています。その一人ひとりの違いを認めあえる、そういう社会になったら、チャレンジャーや人と違うことをする人を応援するのが当たり前の社会になってくる。

そういう日本に早く変えていきたいなという想いでやっておりますので、ぜひ皆さんのお力をお借りできたらと思っております。ありがとうございました!」

賞品は総取り方式のため、小助川さんには「獺祭 磨きその先へ」のマグナムボトル、サツドラ冨山さんが帯同する北海道SDGsツアー、ヘラルボニーのKAPOK KNOTとのコラボによるコート、パンフォーユーのパンスク1年分やギフト券が贈呈された。

サツドラ富山 浩樹さん「高2の息子と中2の息子にこのカタパルトを見せたい。最高の授業じゃないかと」

苦しい時に声を掛け合い応援し合って、奇跡を起こそう

最後にもう一度、出雲さんから感想と激励の言葉が贈られた。出雲さんは、経営者の先輩としてではなく、心の底からの志をもつ仲間として語りかけた。

出雲 充さん「今日は最初にお願いしたっていうこともあったんですけれども、本当に皆さんの拍手がすごくて、お互い最高に励まし合う、素晴らしい時間になったと思います。

聞いていたみんなが、ほとんど泣いているんですけど、それはやっぱり皆さん自身が大変なご苦労をされてきたから、今彼ら彼女らがすごく大変な状況で頑張っているっていうことを、もう自分のことのように痛いほどわかる、そういう仲間がここに集まっているわけですよね。

冒頭にも申し上げましたけど、このソーシャルグッドに対して、今はすごい逆風です。もう雪山で遭難しているようなものですよ。

一番苦しい時に練習を続けてオリンピック、パラリンピックで優勝するチームとそうじゃないチームというのは何が違うのか、色々なところで研究がされています。

最後はみんなヘトヘトなんですよ。それでも世界記録更新とか世界一になるチームは、苦しい時に声を出し合って励まし合って応援し合う、そういうチームが最後信じられない力を出し切って、奇跡を起こすんですね。

一方、『自分も辛いし相手も辛いし、声なんてかけてる余裕ないよ』ーーそういうチームは、雪山で遭難すると死んじゃうんです。

2025年にミレニアル世代が社会の中心になるまで大変な時期が続くと思いますが、ここに集まっているみんなが誰一人取り残されない、”No one left behind”、これを実現するためにはみんなで励まし合って応援し合って、声を掛け合って、大変だけど頑張っていこうねっていう、こういう場が本当に大切です。

この場を作ってくれたICC小林さんと運営してくれたスタッフの皆さん、そして今日本当に命を燃やしてプレゼンしてくれた皆さんと、それを応援してくれた、拍手してくれた皆さんに心からの感謝と、2025年まで1人も脱落しないで頑張ろうねって、もう1回最後に申し上げて終えたいと思います。今日はお疲れさまでした。ありがとうございました!」

力強く、冒頭のスピーチよりも明るい声音で、出雲さんは最後まで会場を鼓舞した。

事業を通じて、一人の命が救われた喜び

授賞式の最後は、前回のウィナー、ヘラルボニーの松田さんから今回のウィナーに優勝を渡すセレモニーが行われた。最後に松田さんは再びマイクを握った。

松田さん「小助川さん、本当におめでとうございます。自分たちの話になってしまうのですが、ヘラルボニーが障害のある方のアートを通じて、いろいろな形でメディアに出たのを見て、ある女性から連絡をもらった時がありました。

それは、お腹の中に赤ちゃんがいて、ダウン症があることが分かったというお母さんからでした。

ヘラルボニーの活動を見て、障害は悲しいことじゃない可能性もある、ということを知って、産むことを決めましたとありました」

何度も言葉をつまらせながら、溢れ出る感情を抑えながら一生懸命話してきた松田さんは、ついにこらえきれずに涙をこぼした。

「……これが正解なのかどうかわからないんですけど、そのときに会社をやっていて本当に良かったなと、自分としても、どう社会を変えていくのかというよりは、こうやって一人の命がその時救われたんだなというのは、すごい喜びになったんです。

その気持ちはずっと大切にしていこうと思っていたので、こうやって小助川さんが優勝できて、僕はすごく嬉しく思っています。おめでとうございました」

従来の教育に子どもたちを当てはめず、その好奇心や可能性を育む場を作る小助川さんは、子どもたちの未来を救っている。事業は違えど、その根本の共感からエールを送る言葉は大きな感動を呼び、再び会場は涙に包まれた。

続いてウィナーボードを二人で持って記念撮影となったが、二人が泣き笑いのような表情をしているのは、このスピーチ直後のせいだからである。

最後は再び、三輪さんの音頭で再び割れるようなスタンディングオベーションとなった。この場の仲間たちへ、会場にいなくてもすべての現場で頑張っている挑戦者の仲間たちへ、何度も拍手が高まったあと、ソーシャルグッド・カタパルトは幕を閉じた。

感動の余韻が残る会場で

この場にいた誰かと、感激を分かち合わずにはいられないという余韻が残り、カタパルトが終了した会場の前方にはむしろ人が集まってきた。獺祭の最高級品を優勝賞品に提供してくださった桜井さんに感想を聞く。桜井さんは以前から、SDGsのテーマでカタパルトができないかとご提案もいただいていた。

「社会課題は、私たちの目に届くのはすごく少なくて範囲が狭いとよくわかりました。一人でできるものではありませんね。登壇したそれぞれのみなさんが、それぞれの課題をビジネスにつなげ、想いを発信しようとしている、これって私たちにすごく意味があることです。

私たちがその一員として何かお手伝いをすることを考えていけるのは、未来にとって意味がある。その機会を与えていただいたカタパルトとセッションに参加できてうれしいです。

短期的も長期的にも、お酒が飲めるいい世の中、まともな世の中になってほしいと思いますね。そのためには、経済合理性だけの社会では絶対だめです」

「皆に頑張ってほしくて、賞を決めづらかった」とコメントした桜井さん

審査員として、今回ICCサミットに初めて参加した新公益連盟の白井さんは、自身の事業や苦労と登壇者たちが重なり、「見ながらずっと泣いていたかも」と笑う。

「来て本当によかったです。私自身も未来に希望を持てました。

みんな同じじゃないといけないという思い込みから開放されるようなきっかけが、本当にここから起こっていく期待というか、ここから社会が変わっていくんじゃないかと、確信が持てました。

私もずっと不登校の子どもたちを、それこそ政府に無視されていた子どもたちを地道に、一人ひとりを元気にして、世の中に返してということをやってきて、それが制度になったり広がっていったりしていますが、同じ想いの人たちがいることを知って、すごく元気をいただけました。一緒に何かをしたいと、これからお声がけに行こうと思っています」

Homedoorの川口加奈さんは、前回も審査員を務め、カタパルト後のセッションに出雲さんらとともに登壇した。

【一挙公開】ソーシャルグッド社会の実現に向けて(全5回)

「前回も審査員をさせてもらったのですが、今回も登壇者12人分の『情熱大陸』を一瞬で聞いた感じがして、話される人もすごい熱量で疲れていると思うのですが、聞いている側もどっと疲れながら、満足感がありました。

出雲さんとも話していたのですが、最終日の朝ではなく、メインセッション、ICCの一番人気の枠でも、きっと満足感を得られるんじゃないかと思います。最後の最後、ヘラルボニーの松田さんまで、すごく感激しました。

私も最初はカタパルトから登壇させてもらって、今は審査員をさせてもらうのですが、皆さんのを聞くともう1回出場したいなと……いや、したくはないか(笑)、緊張してすごく疲れるんですよ。

「ここに来たら、絶対に何とかなる」ホームレス問題に”仕組みと場づくり”で挑むHomedoor(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】

でも自分も見せ方や伝え方が学べるし、つながりもいっぱい作れる場ですし、私も頑張りたいなと思いました。

実は10年前、農スクールの小島さんとは起業塾で一緒だったんです。うちのおっちゃんが小島さんのところへ行ったりしていて、メッセンジャーではやりとりしていたんですが、再会するのは10年ぶり。話してきます!」

前回4位に入賞した「おてつたび」の永岡 里菜さんは、今回審査員として参加した。

「おてつたび」は出稼ぎをリブランディングして、人手不足をファン創出のチャンスに変える(ICC FUKUOKA 2021)

「本当に目頭が熱くなりましたし、改めて自分も気を引き締めてやらなければという刺激になりました。

コロナで、なかなか同士で高め合って、励まし合うような場がなかったのですが、こういう場は重要だと改めて、ICCの小林さん含め運営のみなさんありがたいなって思いました」

登壇前に、スタッフと手順を確認する松田さん

前日のデザインアワードでのユーモアたっぷりの様子とは一転、壇上で号泣したヘラルボニーの松田さんは、ようやく落ち着きを取り戻して、いろんな人たちと談笑している。

”体験型エクストリーム・アワード”初代勝者たちの、デザインから社会を変える決意<ICCデザイン・アワード後編>【ICC KYOTO 2021レポート】

「初めて壇上で泣いてしまいました。ほんとに。自分で言っていて…涙もろくなっちゃいました。小助川さんが泣いていると思ったら、もらい泣きじゃないけど、いろいろ思い出して泣いてしまって。

そればっかり言っていられませんけど、そういう経験があるから、頑張れるところはありますよね。思い出す瞬間もたくさんあって。

今回のICCでも新しいつながりがたくさんできました。次の半年後も新しいコラボがあるから楽しみにしていてください!」

「どのカタパルトより一番熱が高かった」

優勝を受けて、カタパルトと連動したパネル・ディスカッション「ソーシャルグッド社会の実現に向けて(シーズン2)」に急遽登壇となった小助川さん。セッションが終了して人の波が落ち着いたところで、改めて今回のカタパルトにかけた想いや、終わったばかりの議論について聞いた。

「プレゼンの準備は、チームメンバーからフィードバックをもらったり、他のカタパルトを見て、何が心に刺さるかというのを見ていました。

前回はスタートアップ・カタパルトでしたが、今回は全然雰囲気が違いました。最初の出雲さんの話が激アツで、心が震えて、私も涙が出てしまいました。これはすごいなと。

「まさか皆さんの前に立って、泣くという経験をするとは」と小助川さん

ソーシャルグッド・カタパルトがいいのは、ここでいろんな人たちに知ってもらえること。関係人口が広がらないことには、ソーシャルグッドが実現できないですから」

セッション中に話題となったキーワード”関係人口”を増やすために、小助川さんは会場で配布されるプログラム冊子を入手したら、会いたい人に印をつけて、見つけて話しかけていると言っていた。リアルな場での交流を最大限に活用するために、できることはすべてやっているという。

「今回は印をつけた人、達成率9割いってます。その方のSNSを見て、お子さんがいるなと思って仮説を立てたり。そこから知り合いもご紹介いただけたりして、ICCに来ていない人にも広げていきます。本当にいっぱいの人たちの力が必要なんです」

2つのカタパルトに登壇・入賞した今、小助川さんは3つ目を狙っている。

「スタートアップ・カタパルトは、DXで効率化するような、BtoBのSaaSが多かった。DXはとても大事だと思っていて、無駄なこと、忙しさで心にゆとりがないところを、DXによってゆとりができて、いろんな社会の課題に目が行くようになり、心に対して意識が行く人がいると思うんです。

今日登壇して思ったのが、今はスタートアップより全然人が少なくて、辺境の地にいて変わり者なのですが、辺境と変わり者から時代は変わっていくので、数年後はソーシャルグッドがもっと増えてくると思うんです。

とくにミレニアル世代が会社経営をするようになっていくと、会場にどんどんそういう人が増えていって、ソーシャルグッドがメインになるんじゃないかなと。どのカタパルトより一番熱が高かったのはここです。もう圧倒的でした。

ところで……カタパルト・グランプリでソーシャルグッド系が優勝したことは、まだないですよね?」

◆   ◆   ◆

ICCサミット最終日とあって、かなり来場者も減った朝イチのセッション。しかし集まった人たちの熱狂は尋常ではなく、明らかに重要なことが起こっている雰囲気があった。そして登壇者たちがさまざまな人たちと言葉を交わして、次々とつながっていく様子を目の当たりにした。

散らばっていた点が線になり、やがて面となったとき、そして経営者が本気で社会にインパクトを与えようとして成果を積んでいくときに、少しずつ社会は変わっていく。

だから上場企業の経営者の出雲さんですら「1人でも事業を止めてほしくない」と、仲間に呼びかけた。仲間が増えれば描く未来の実現が早まり、減ったらそれだけ遅くなる。NPO、社団法人、環境問題や社会的弱者の課題に取り組む人たちが肩身を狭くしていては、いつまでも課題は解決せず、私たちが生きる世界はますます問題を抱え、生きづらいものになっていく。

真剣な登壇者たちの表情を見て、この半端でない盛り上がりが一過性のものでないことを願った。今は感動と興奮に包まれているけれど、熱狂が収まったときに我に返って、再び彼らをないがしろにし、犠牲や献身を迫るようなことになりはしないか。そんな経験を何度もしてきているから、登壇者たちは冷静だったのではないかとも思う。

だからこそ、ICCというビジネスカンファレンスの場で、まったく異業種の人たちが出会う場で、ソーシャルグッド・カタパルトを開催する意義がある。なかなか成果がでないことを続けるには仲間がいるし、新たなイノベーションが必要だ。ともに学び、産業を創ることをこれほど渇望している領域はない。

創業したときは1人きり、すぐには軌道に乗らず、大きな利益がもたらされるものでもなく、未来が変わる保証はない。己の非力さをおそらく毎日思い知りながら、「絵空事」と笑われるビジョンの実現のために努力し続ける挑戦者たちの訴えは切実だ。これほどに経営者が原点を思い出し、心震わされるカタパルトはないだろう。

なぜそんなに盛り上がっているのか?という興味本位や、ソーシャルグッドの産業は本当に立ち上がるのか?という好奇心でもいい。次回のソーシャルグッド・カタパルトは時間を作ってでも見てほしい。もはやICCサミットに来てこれを見ないのは損と言ってもいいほどの熱いプログラムで、このまま勢いが増せば、次の産業の歴史が創られる場面に立ち会えるだろう。

そして当事者たちの想いに触れて、”関係人口”の一員となってほしい。今回登壇した事業はどれも待ったなしの、重要なものばかりではないか。彼らが訴えるあまりにまっとうなビジョンが実現するためには奇跡が必要で、奇跡を起こすためには、1人でも多くの仲間の応援が必要なのである。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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