食関連のビジネスを展開する経営者が集結したICC FUKUOKA 2024のセッション「『食』のビジネスポテンシャル」、全7回の②は、シーベジタブルのテストキッチンで、元有名レストランのシェフが開発する驚きの海藻料理を紹介。食の提案から海藻食をさらに広げようとするシーベジタブルですが、そこにはさまざまな課題があるといいます。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 4F
「食」のビジネスポテンシャル
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
内藤 祥平
日本農業
代表取締役CEO
橋本 舜
ベースフード
CEO
古谷 知華
日本草木研究所(山伏)
代表
(モデレーター)
西井 敏恭
シンクロ
代表取締役
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レシピ開発で海藻のスイーツや発酵ドリンクが誕生
友廣 これは、平成の20年間の海藻消費量の比較ですが、消費量は1人あたり40%減っています。
これは海藻の消費の仕方、つまり食べ方が、和食やお袋の味的な家庭料理でしかなく、食の多様化に対応できなかったからだと考えています。
ワカメは味噌汁か酢の物、ひじきは煮付け、昆布は出汁で使うイメージですよね。
食材として向き合えば、乳製品や油分と合ったり、フレンチやイタリアンに使えたりと、もっと可能性があるはずです。
そこで石坂(※前パートで紹介)がテストキッチンで、今までなかったような海藻の食べ方を開発しています。
先日、伊勢丹新宿店でのサロン・デュ・ショコラというイベントに、海藻×カカオのスイーツを出展しました。2年連続で出店したのですが、一部ですごく話題になりました。
▶サロン・デュ・ショコラ2024にてシーベジタブルが<カカオ×海藻>のスイーツを提供(PR TIMES)
写真左下は、大豆の代わりに生の海藻と米麹と塩だけで作った醤油(青のり しょうゆ)で、写真右下は海藻に糖分を足して発酵させたドリンク(海のワイン)です。
▶海藻を発酵させてつくった「海のワイン」が誕生〜伊勢丹新宿店「サロン・デュ・ショコラ2023」でお披露目〜
橋本 海藻を発酵させて醤油にしたということですか?
友廣 はい。
橋本 そんなことできるのですか?
友廣 できるのです、めちゃくちゃ美味しいですよ。
海藻を変えると、フレーバーも変わります。
橋本 小麦の代わりに海藻ということですか?
友廣 大豆の代わりです。
橋本 小麦と海藻と…?
友廣 米麹を使っているので、グルテンフリー、大豆フリーです。
そんな醤油は今までなかったですよね。
磯感がほんのりあって、美味しいです。
友廣さんが挙げるシーベジタブルの課題
友廣 このように、僕らは海藻の食文化を育みながら、結果的に海や人が豊かになればいいなと考えて活動をしています。
例えばすじ青のりなど、 今まで食べていた海藻が採れなくなると、そこにあった需要を満たすために生産する、つまりすでに求めているお客さんがいるので、事業としては始めやすかったです。
ですが、それだけではなく、もっとたたくさん海で海藻を栽培していくにあたり、新しい食べ方をどんどん広げていきたい、食卓に登場するシーンを増やしていきたいと考えています。
しかし、僕らは生産の会社ですがマーケティングの会社ではないので、そこがすごく難しいです。
その壁に今、ぶち当たっていますね。
また、テストキッチンからは醤油やドリンクなど、少し尖った加工品が出てきていますので、そういったものは、生活者よりもガストロノミー系の世界中のレストランに業務用として使ってもらう方がいいと思っています。
最近そんなことを考えていますが、どうアプローチしていけばいいのか悩んでいます。
海藻の相場価格の決まり方とは
内藤 祥平さん(以下、内藤) 海藻の売値や相場は、どうやって決まるのでしょうか?
友廣 今まであったものは相場価格が維持されています。
例えば、ひじきは今まで誰も栽培をしていません。
橋本 証券取引所のような市場がないということでしょうか?
友廣 ないですね。
内藤 相場価格のボラティリティ(価格の変動性)はどれくらいあるのでしょうか?
友廣 海藻によります。
例えばすじ青のりは1キロ1〜2万円ほどですが、ピーク時は5万円くらいにまで上がりました。
天然のものがなくなるプロセスにおいて、毎年価格が上がっていきました。
内藤 今は全体的に、 相場価格が高くなっているタイミングなのでしょうか?
友廣 海藻によりますね。
でも全体的に海藻はめちゃくちゃ安い素材と認識されているので、それが発展の障害にもなっています。
西井 そもそも海藻が安すぎるから、採る人も改良する人もいないのでしょうね。
友廣 そうですね。
資源量自体が減っていますが、もともとわんさか生えていて、例えばひじきは収穫時期になると3mくらいになるので、1度刈れば10キロとかになります。
手をかけて栽培する必要もなく、生えているものをそのまま大量に収穫できるので、とても効率が良いゆえに、相場価格が安くても成り立っていました。
その相場価格が維持されているので、今、栽培しようと思ってもコストが見合わないのです。
国内の生産量が減っているのに、栽培してもコストが利益に見合わないので、実際、日本に流通しているひじきの9割が、中国産と韓国産です。
外食はほとんど海外産で、スーパーで売っている産地表示がある小売商品は国産ですね。
橋本 韓国では、なぜそれが事業として成立しているのでしょうか?
友廣 人件費とスケールメリットでしょうか。
海苔やワカメ、昆布については、日本の技術を中国や韓国に輸出しています。
日本は漁業権の問題があって零細企業のような漁師しかいないので、投資ができず設備開発も進んでいません。
橋本 内藤さんから聞いた農業の話と……。
内藤 全く同じ状況ですね(笑)。
友廣 同じですか(笑)。
西井 構造が同じになっていますよね。
友廣 中国や韓国では設備投資がされています。
韓国では20~30億円かけて海苔の加工所を作っていましたが、日本では頑張っても1億円レベルですね。
そこにギャップがあります。
西井 でも、日本では海苔の生産量が減っているという理解なのですが。
友廣 激減しています。
西井 ですよね。海苔は、高く売ろうと思えば高く売れる商品ですよね。
生産量と消費量の関係
西井 今、海藻全般について話していますが、その海苔ですら足りないという状況であれば、海苔だけを大量に生産することはできないのでしょうか?
友廣 海苔は別の問題で、採れなくなっているのです。
窒素やリンなどの栄養が海に足りなくなって、色落ちした海苔しか育たないという…さらに地域によっては食害の影響もあり、海面栽培できる海域に限界が来ていて難しいのです。
西井 なるほど。
橋本 寿司ブームによって、世界における海苔の消費量は当然、増えていますよね?
友廣 世界的には増えていると思います。
橋本 日本産の海苔が多いのでしょうか?
友廣 いえ、中国など海外産ですね。
一方で、海苔の会社に聞くと、本当に良い海苔のマーケットは日本にはなくて、アメリカにあるとのことでした。
日本では一定グレード以上の本当に良い海苔の価値が評価されていないという、また別の問題があるのです。
西井 友廣さんからは、課題を2つ出していただきました。
先ほど聞いていて思ったのですが、そもそも海藻量が激減しているというのは、日本だけではなく世界全体で減っているのでしょうか?
それとも、日本だけのことですか?
友廣 世界にはそもそもマーケットがなかったので……。
西井 なるほど、マーケットがなかったので、日本のことしか分からないということですね。
先ほど、生産量だけではなく消費量も減っているとおっしゃっていました。
生産量が増えれば食文化が広がるのか、もしくは、消費量がすごく増えればそれをビジネスチャンスだと捉えて投資がされるようになるのか…どのレバーが一番大事なのでしょうか?
いくつかあるように思います。
友廣 僕らが栽培方法を確立している海藻については、需要さえあればどんどん広げられます。
つまり、消費量が増えれば生産量を増やしていくことができます。
橋本 もともと日本人は生野菜を全然食べませんでしたが、キユーピーがマヨネーズとドレッシングを発売したので、今は生野菜やサラダを食べるのが当たり前になりました。
▶キユーピーが広げてきたドレッシングとサラダの歴史(キューピー)
それに近いのかなと思います。
例えば、海藻サラダが食卓の当たり前になれば…つまり、海藻が野菜という扱いになれば消費量が増えるかもしれないですね。
友廣 確かに。
西井 これはたまたまですが、僕は1カ月くらい前、500gで6,000円くらいする、岩手のすごく高いワカメの相談をされました。
通販で売りたいということでしたが、通販で売るのは難しいな、と感じています。
その時に感じたのは、まさに今のポイントです。
それはすごく良いワカメで、その時期しか食べられないものだったようですが、そもそも食べ方が分からないし、食べる方法も少ないですよね。
ワカメをどうやって食べるかと言うと味噌汁くらいしか思いつかないですが、味噌汁に6,000円のワカメは使わないですよね。
ですから、食べ方の開発はすごく大事であり、橋本さんが言ったように、調味料というのも一つの切り口かなと思いました。
あのnoma Kyotoがシーベジタブルの海藻を採用
古谷 知華さん(以下、古谷) nomaは、シーベジタブルの海藻のどこを評価して使ったのでしょうか?
やはり、市場では売っていない点ですか?
友廣 2023年のnoma Kyotoでは、海藻しゃぶしゃぶというメニューを提供してもらいました。
▶海藻しゃぶしゃぶ @NOMA KYOTO 2023.03.17(SEA VEGETABLE COMPANY)
トップレストランには新しさが重要ですが、彼らが12万円の料理を作っても、nomaに食べに来るような人たちからしたら、世界のどこかで食べたことのある食材の、より美味しい料理という印象になることが多いと思います。
でも海藻は、本当に新しい食材なんですよね。
日本人ですら食べたことのない、すごくシャキシャキする食感の海藻なんかもあります。どんなフーディーが来ても全員が驚く食材なので、nomaは面白い食材として評価したのだと思います。
橋本 そのnomaの海藻しゃぶしゃぶを推せばいいのではないでしょうか?
それなりに広がりそうですけどね。
友廣 広がりますかね?
西井 きちんと開発すれば可能な気がします、シンプルですし。
ただ、オイシックスの事業を行っていて思うのは、手間がかかりすぎる料理を家庭に持ち込むのは大変だということです。
レストランも同じだと思います。
例えば海外の高級レストランに持ち込んで、そこでしか作れない料理にしてしまうと再現できなくなってしまいます。
むしろ、世の中の人たちに真似されやすい、標準的な料理にする方がうまくいくのかなと思いました。
タピオカも、その一例かなと思います。
あまり詳しくはありませんが、タピオカも、原料さえ手に入れてしまえば家でも作れるのではないでしょうか。
また、海藻と野菜は根本的に違うものですが、それを理解するまで僕は、陸に生える野菜と同じようなものが海に生えているというイメージを持っていました。
違いますよね?
友廣 違いますね。
西井 ですよね。
友廣 僕らが社名をシーベジタブルとしたのは、海藻を野菜に寄せた方が馴染みやすいと思ったからです。
西井 それはそうですね。
まさに野菜の一つとして扱うべきなのか、それとも全く別物として扱うべきなのか、その定義がふわっとしているので、どのポジショニングを取るかを考えると、ポテンシャルはあるのではないかと思います。
では続いて、内藤さん、お願いします。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成