食関連のビジネスを展開する経営者が集結したICC FUKUOKA 2024のセッション「『食』のビジネスポテンシャル」、全7回の⑤は、ベースフード 橋本 舜さんが、社会課題に取り組むフードテックカンパニーとしての矜持を語ります。R&Dエンジニアが正社員の50%を占めるというベースフードが目指す世界唯一のパン作りとは?ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 4F
「食」のビジネスポテンシャル
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
内藤 祥平
日本農業
代表取締役CEO
橋本 舜
ベースフード
CEO
古谷 知華
日本草木研究所(山伏)
代表
(モデレーター)
西井 敏恭
シンクロ
代表取締役
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橋本 今の内藤さんの話(前Part参照)を聞いて、ベースフードも同じだったなと思いました。
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橋本 舜
ベースフード株式会社
CEO
1988年生まれ、大阪府出身。東京大学教養学部を卒業後、株式会社DeNAに入社し、ゲームプロデューサーや、駐車場シェアリングサービス、自動運転などの新規事業の立ち上げを手がける。少子高齢化による社会保障費の増大という社会課題と向き合う中で、健康寿命を延ばすことの必要性を強く認識。毎日食べる主食で栄養バランスが良いものがとれるようにすれば、社会課題の解決にもつながると考え、完全栄養の主食「BASE FOOD」を開発。2016年4月に「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」をミッションに、ベースフード株式会社を創業。2022年11月東証グロース市場上場。「 ICCサミット FUKUOKA 2018スタートアップ・カタパルト」第2位。「Forbes JAPAN 日本の起業家ランキング2023」第4位。
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創業時からアメリカには展開していました。
▶完全栄養の主食を開発・販売するベースフード、米国で「Base Noodles(ベースヌードル)」を販売開始!〜2019年9月、米国西海岸地域にて受注スタート〜(PR TIMES)
プロダクトがイマイチだと、ローカライズをいくら頑張っても難しいなと思い、プロダクトがめちゃくちゃ良いものであればローカライズをそもそもしなくてもいいと考え直し、今に至っています(笑)。
ニワトリが先か卵か先かという話なのかと思います。
ベースフードは研究開発ドリブン
橋本 冒頭の西井さんの「食ビジネスのどこにポテンシャルがあると感じたか」という質問に答えると、主食が変わっていないことと、栄養バランスが大事であることの掛け合わせでした。
課題については、今は規模も結構大きくなってきましたが、製造状況が変わっていないこと、基礎研究があまりなされていないことですが、それぞれ結構大きい課題になってきました。
社会保障費が問題になっているので、健康寿命を延ばさないといけないですし、増えている1人暮らし世帯では、主食、主菜、副菜、もう一品という形式は難しいです。
それぞれはこれまで日本の良さだったかもしれませんが、掛け合わせると課題になります。
テクノロジーを活用して、全粒穀物や豆類など、サラダみたいな原料でパンを作りたいと考えたのがきっかけでした。
温室効果ガスの削減には風力発電が良いのではないかと皆さん思うかもしれませんが、実はフードロス削減と植物性中心の食生活が解決策の3位と4位に入っており、2つを合わせると1位になります。
▶DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法
これがポテンシャルだと考えています。
一般の人が風力発電をしたくてもできませんが、フードロスを減らしたり、植物性のものを選んで食べたりはできます。
当たり前の話ですが、食による人間のカロリーは最もプリミティブなエネルギーであり、人間の活動をサポートするのはサブのエネルギーです。
あと、大手企業の場合、R&D(研究開発)には社員の5%ほどしかリソースを割いていません。
でも、テスラは30%、モデルナは50%以上を割いていて、マーケティングはすごく効率化しています。
つまり、研究開発ドリブンなので、我々の会社でもデジタルエンジニアかR&Dエンジニアが50%を占めます。
コンビニに導入されているのですごく注目されますが、B2Bチームは、優秀なメンバーですが手で数えられるほどしかいません。
安全で安価なパンを作る基盤が崩壊しつつある
橋本 例えば、当たり前ですが品質保証にはデータが必要です。
工場の各工程でデータを取っていなければ、原因も分からないので対策の取りようがありません。
データドリブンな品質保証、その先にはAIドリブンな品質保証があります。
そうすることで工場をサポートできますし、賃金を上げられますし、人を介するほど人の菌が付着するリスクが高くなるので、オートメーションを進めていかなければいけません。
例えばパン工場の近くに半導体の工場ができて、そちらの時給が倍でエアコンが効いていると、採用ができなくなります。
パンは米よりも食べられていますが、パンが作れなくなります。
パン工場は今、採用ができなくなっていますし、今後もできなくなるはずです。
そうなるとパンの価格は倍になるのですが、それは日本ではかなりまずい状況です。
所得の低い人たちは、本当に厳しい状態になると思います。
誰も知らないと思いますが、震災が起きると、大手のパンメーカーがパンを配ります。
▶被災地に配送のパン「本当に感謝です」大手3社の“業界総出”で緊急支援11万食 2024.01.04(ENCOUNT)
米だと炊けないからです。
つまり、パンはすごく重要なものなのですが、100円で安全なパンが食べられるのは、企業がめちゃくちゃ努力をしているからです。
その基盤が崩壊している中、スタートアップは我々しかいないという状況なので、責任感を感じています。
食料品の生産が先端技術産業になるポテンシャル
橋本 パスタもそうですが、小麦と塩だけで作るのが良いという傾向があります。
全粒穀物と豆類だけで精白小麦粉で作られたようなパスタを作ってほしいとお題を与えられれば、小麦粉と培地が違う発酵をどう科学するか、タンパク質が多いパンでも、どうすれば柔らかくできるか、など研究開発のスタート地点が見えます。
でも、そういうお題もないですし、研究開発をしたところで売上にあまりつながらないのです。
我々は、博士号を持つ研究員がタンパク質科学や微生物工学に取り組んでいます。
僕の持っている帝国書院の高校教科書には、食料品は軽工業だと書いてあります。
高校生にそう教えると食品業界に来てくれなくなるので、僕は食料品産業を、技術集約度が高くて労働集約性の低い、つまり先端技術産業にしたいのですが、それができるのは我々だと考えています。
震災で、政府が賞味期限の長いパンを提供してほしいと依頼したとしても、それが作れる会社はほとんどありません。
賞味期限が長くて栄養バランスが良ければ、それはすごく必要とされるパンだと思うので、作るのはめちゃくちゃ難しいですが、取り組む意味はあると考えています。
西井 ありがとうございます。
社会がどんどん変わっているにもかかわらず、製造面が古い状態で止まっているので、そこにポテンシャルがあるということですね。
実際にそれが今、社会に受け入れられていますよね。
橋本 CESで訴えられているような、インダストリー4.0、スマートファクトリー、インダストリアルメタバースなどの製造イノベーションは、食品業界には全く入ってきていません。
▶インダストリー4.0とは? IoTとの違いについても解説(日立グループ)
例えば、インダストリアルメタバースだと、一度メタバース上に工場を作って実験すると、建築でミスをしなくなります。
▶インダストリアルメタバースとは? 利点やビジネスへの活用例を紹介(Digital Business Sherpa)
ですので、そういうイノベーションをまず取り入れていくのが大事ですね。
西井 なるほど、ありがとうございます。
古谷さんの事業と関連性があるかもしれないので、このまま古谷さんのプレゼンに移りましょう。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成