食関連のビジネスを展開する経営者が集結したICC FUKUOKA 2024のセッション「『食』のビジネスポテンシャル」、全7回の⑥は、日本草木研究所 古谷 知華さんが、森林資源から新たな価値を生み出す事業を紹介。全国を巡り見つけた食品原料は、ハイエンドなレストランから求められているそう。若手林業従事者との興味深い取り組み「相棒山制度」についても、ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 4F
「食」のビジネスポテンシャル
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
内藤 祥平
日本農業
代表取締役CEO
橋本 舜
ベースフード
CEO
古谷 知華
日本草木研究所(山伏)
代表
(モデレーター)
西井 敏恭
シンクロ
代表取締役
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森林に眠る植物原料で価値を創出する日本草木研究所
古谷 よろしくお願いします、日本草木研究所の古谷と申します。
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古谷 知華
日本草木研究所(山伏)代表
1992年東京都生まれ。食育家庭に育ち食への異常な興味を抱く。2015年東京大学工学部建築学科卒業後、ブランディングを専門に企業の新規事業や商品開発のコンサルを行う。2021年に「日本草木研究所」創業。2023年ForbesのNEXT100の企業選出。
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私たちの会社は、現在価値のついていない森林資源に、味、食、香りなどの切り口から新しい価値を見出し、国土面積の7割を占める森林を宝の山にしていこうとしています。
▶「日本草木研究所(山伏)」は、森に眠る資源の発見で林業と食に新たな価値を創出する (ICC KYOTO 2023)
例えば日本に流通しているスパイスには海外産のものしかありませんが、実は日本には海外にも引けを取らないような植物原料があるので、それらを林業従事者に採ってきてもらい、新しい林業を作って嗜好品の世界を広げようとしています。
私は普段、全国を回って色々なものを食べたり香りを嗅いだりして、価値のある植物を探っています。
シーベジタブルと違ってまだ栽培はしておらず、雑木林として生えているシナモンや胡椒の実など、とても良い香りのする植物を活用しています。
皆さんと違う点として、原料ビジネス以外にブランド事業を行っています。
スギやヒノキの間伐材や、沖縄に生息するシナモンの木を活用してお酒を作ったり、誰も知らないと思いますが、日本にあるフウトウカズラという胡椒を活用したりしています(※) 。
▶編集注:日本草木研究所の商品は、Productをご覧ください。
また、スギの新芽はピクルスにできるので、シェフに人気があります。
「相棒山」の若手林業従事者が収穫、プロに販売
古谷 これらの原料を、「相棒山」と呼んでいる15カ所の山から買い取っています。
今まで買い取りされていなかったものなので、かかる時間などから計算して、労働単価をつけています。
おそらく日本で唯一の可食植物買い取りリストを作っており、協力してくれるのは、通常の林業以外の可能性を探りたいと考えている、30~40代の若手林業層です。
我々は自社工場を持っていないので、相棒山から買い取った素材を提携工場でブランド商品に変え、生活者やレストランに卸しています。
変わったものを作っており、価格も高いので、取扱先の大半はラグジュアリーホテルで、スーパーなどマス向けには卸せていません。
アマン京都など、敷地内にたくさん森があるホテルから、その森林を使って食品を開発してほしいという依頼があり、最近だと、年間1万杯くらい提供するウェルカムドリンクを作りました。
輸出先はほとんどがデパートですが、輸出も行っています。
食料と食品を作る以外に、森と食を掛け合わせることで新しい地域産業も作れるのではないかと考えています。
海外だと「フォレージング」(※foraging 採食の意)というものが流行っており、ロサンゼルスの海岸で海藻を採取してラーメンを作るツアーが15万円で提供されています。そんなフォレージングツアーを作ることもしています。
卸業も行っており、森の珍味を比較的高価格で山から買い取り、手数料15%は頂きますが、山からの産直便という形でレストランに直接、販売しています。
出荷は、収穫してから2日以内です。
これは完全にプロ向けであり、一般消費者は買わないので、ガストロノミーに卸しています。
日本草木研究所のポテンシャルと悩み
古谷 ミシュランのお店が非常に多いのですが、裏を返せば、物珍しいものを求めている高価格帯の店にしか卸せていないという課題があります。
私はICCサミットには前回の9月から参加しているのですが、そこで、ほぼ海外産の原料を完全に国産原料に切り替えたいというメーカーとの縁があったので、もしかしてマス向けにも卸せるかもと考えています。
例えば、サントリーのジンの原料になるジュニパーベリーも日本のものがあるので、それに置き換えたいと思っています。
私は起業家を目指していたわけではなく、色々な植物を探求して素材にしたかったので、入り口の切り口は美食で、一風変わった方に卸すような事業でした。
でも、国産原料に切り替えられていないスパイスやハーブは、メーカーにとってのポテンシャルかもしれないと最近感じています。
悩みは、ターゲットがあまりにもハイエンドなので市場が小さいことです。
とはいえ、ハイエンドなレストランの卸先もまだまだ増やせると思うので、メインルートはそこがいいかなと思います。
また、収穫しているのは自生植物で、一つの山に点在して生えているので、収穫効率が悪いのです。
ですから、群生地の育成をしなければいけません。
スギ以外のものを植林することが国策にもなっているので、植林の際は食べられる樹種を提案していますが、時間がかかります。
旬がすごく短く、花の場合は最短で2週間ですが、その2週間でどれだけ稼げるかも課題です。
我々は皆さんのようにR&D機能を持っていないので、可食ができるかチェックするための毒性検査はしますが、食べ方を開発するシェフはいないので、提携しているパートナーシェフに時々開発してもらっているくらいです。
私たちの取り組むべきR&Dが何かも、分かっていません。
西井 なるほど、ありがとうございます。
生産量は十分なのでしょうか?
生産と消費、どちらが課題というか、レバーなのでしょう。
古谷 生産はしていないので、収穫ですね。収穫には課題があります。
例えばスギはどこにでもあるので、新芽は比較的、収穫しやすいです。
台湾にある「マーガオ」というスパイスは売れていて、実は鹿児島にも生えているのですが、行きづらい場所に生えているので収穫が難しいです。
▶馬告(マーガオ)(スパイスオブライフ)
林業従事者がここにポテンシャルを感じてくれるように、得意先やクライアントを増やしていけば、彼らも高枝から取ってあげようというふうになっていくかなと。
西井 めちゃくちゃ売れれば、収穫する人が増えるのですよね。
古谷 そうですね。
西井 日本の山には、収穫できる量は残っているのでしょうか。
古谷 あります。
西井 例えば、4月は花山椒をめちゃくちゃ食べますよね(※花山椒の旬は4月から5月)。
10年前に比べて価格もめちゃくちゃ上がっているので、収穫する人もすごく増えたのではと思います。
そういうヒット商品さえ生まれれば、あとはうまくいきそうなのでしょうか?
古谷 はい、でも先ほどの海藻の話を聞いて、乱獲が起こってしまうと良くないと思いました。
一方、花山椒もすごく高いものなので、人件費の高い日本人が小さいものを摘んでいる限り、交換価格にならざるを得ません。
そう考えると、そもそもそこまでのマス市場にはならないものではないかと思っています。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成