食関連のビジネスを展開する経営者が集結したICC FUKUOKA 2024のセッション「『食』のビジネスポテンシャル」、全7回の④は、日本農業 内藤 祥平さんが、地道に続ける農地の取得作業やりんごと同じ手法で展開する他の果物について紹介。高品質、しかし非効率な日本の農業を変え、グローバル市場に挑戦する日本農業の取り組みを、ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜 9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 4F
「食」のビジネスポテンシャル
Supported by エッグフォワード
(スピーカー)
友廣 裕一
シーベジタブル
共同代表
内藤 祥平
日本農業
代表取締役CEO
橋本 舜
ベースフード
CEO
古谷 知華
日本草木研究所(山伏)
代表
(モデレーター)
西井 敏恭
シンクロ
代表取締役
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耕作放棄地を集め大規模農園化
内藤 というわけで日本農業は、このようなことを、まずはりんごを使って行ってきた会社です。
高密植栽培のための青森県にある農場は今32ヘクタールあり、雪解けしたら25ヘクタールを追加予定なので、合計50ヘクタールほどになります。
▶ジャパンアップルが約23haの園地を拡大 日本最大級、約55haの高密植栽培のりんご園地誕生(PR TIMES)
東京ドーム10個分です。
欲しい農地情報を集めて法務局に行き、100人、200人の地権者リストを作り、毎日彼らを訪れて土地をかき集めるという泥臭いこともしています。
そのおかげで今はかなり土地がまとまってきており、一番大きいもので約30ヘクタールです。
この点だけで言うと、日本らしくない景色を作り始めることができています。
橋本 その地権者たちは、なぜ交渉に応じてくれるのでしょう。
どういうメリットがあるのでしょうか?
内藤 基本的に彼らはもう、生産していないからです。
橋本 耕作放棄地なのですね。
内藤 そうです。経済的に普通に考えれば、我々が賃料を払うか買うかするものですが、それでも頭を下げないと、なかなか貸してももらえません。
地方ではよくあることです。
りんごと同様に、キウイ、ぶどう、さつまいもに展開
内藤 今、りんごで始めたことを、キウイフルーツで、香川県と群馬県で行っています。
▶日本農業の子会社 荒廃農地をキウイ農園に 高崎市の補助金活用 年300トンの収穫目指す(東京新聞)
栃木県ではぶどう、静岡県ではさつまいもです。
▶清水港初となるタイ向けサツマイモ輸出(PR TIMES)
勝ち筋のストーリーは同じで、キウイフルーツも日本式では平棚栽培なのですが、ニュージーランドに行って、4倍の収穫量であるニュージーランドの栽培方法を学び、取り入れて大規模導入をしています。
今、アジアのキウイフルーツ供給の9割が南半球から、1割が北半球からなので、逆の気候を活用しています。
例えば、南半球からは気候的にゼスプリが供給できない時期に、日本で作ったゼスプリ(※)を売る形です 。
▶編集注:国内産ゼスプリは、愛媛県、佐賀県、宮崎県の契約農場が生産し、11~12月に店頭に並ぶ(ゼスプリ基準で育てた国産キウイフルーツを参照)。
シャインマスカットも、初期投資はかかりますが、他の農家よりも早く、たくさん収穫ができる早期多収の方法で展開をしています。
このスライドには載せていませんが、今年から、いちご、桃、梨も始めるので、絶賛、品目拡大中ですね。
友廣 りんごはもう頭打ちだから、他の品目を展開しているのでしょうか?
内藤 りんごはまだまだです。
我々の取扱量は1.2万トンほどですが、青森県全体では40万トンなので、まだシェアは2、3%しか取れていません。
これからまだまだ伸びる可能性はありますが、生産の時間軸が長いという特性があるので、りんごをやり切ってからキウイを始めるのではなく、複数の果物に併行して取り組んでいます。
友廣 なるほど。
青果のグローバル市場は大きい
内藤 最後に、オポチュニティについて補足です。
りんごの生産性の推移を、日本とアメリカとニュージーランドで比べています。
1960年代はどの国も生産量が反あたり2トンで今の日本の生産性と変わりませんでしたが、その後、アメリカとニュージーランドはぐんぐん伸ばしていった一方、日本はそのままです。
その結果、りんごの絶対生産量についても、内需のあまりない島国であるニュージーランドは輸出を中心に伸ばしていますし、アメリカでは内需も広がり、かつ輸出量も伸びています。
翻って日本は、内需は純粋に落ちて、輸出量が少し増えただけです。
ニワトリが先か卵が先かという話になりますが、日本は規模を追わずに品質を追い求めてきたゆえに、良い品種がたくさんあります。
ですので、優位性のある品質を維持したまま収穫量を増やせれば、伸びているアジアのマーケットが日本にとって絶好の基盤になると考えています。
日本は、アメリカやニュージーランドに比べてアジアに物理的にも近いですし、人件費の面でも優位です。
まとめです。
これは食というよりも農業についてですが、昔から弱みと強みがクリアです。
品質は良いですが、バリューチェーンのすべてのポイントで効率が悪いので、改善余地がたくさんあります。
また、りんごだけでも3,000億円と、マーケット規模がそれなりに大きいです。
中国やインドを入れたアジアの青果となると45兆円にもなりますが、その市場はCAGR(年平均成長率) 6%で成長しています。
ですからこの産業には、品目を複数展開するとそれなりに大きいビジネスを作れる余地があります。
ニッチなところを攻めるというよりも、正面から大きいものを獲得しにいく戦い方ができると思っています。
西井 ありがとうございます。
この課題は僕らが解決したり意見したりできない感じがするのですが(笑)、橋本さん、何か思いつきますか?
橋本 僕も最近、自社の課題として、非IT企業がIT企業と同じくらいの高成長率を達成することは、意味があるけど難しいと思っています。
ベースフードも実際の物を扱う必要があるので、そうではない事業に比べて複雑になっています。
その複雑性をマネジメントできれば、成長を続けられるのだと思います。
我々の課題も皆さんと同じだと思いました。でも、解決策はまだありません(笑)。
課題は参入障壁でもある
西井 そうですね、僕も10年近くオイシックスのビジネスを見ていますが、課題は同じだと思います。
サブスクリプション形式を取ることでお客様の数を確保しているので、「来年、これくらい売るのでこれくらい作ってほしい」と生産者に生産依頼をしています。
つまり、抱えている課題には、サブスクという仕組みによって改善できている部分もあります。
でも、例えば台風や大雪が起これば、その度に手動での調整がめちゃくちゃ入ります。
大変ですが、逆に言えばそれが参入障壁にもなっているので、競合があまり出てきません。
可能性を感じて食品の宅配業界に入ってきても、それほど簡単ではないと感じて撤退する繰り返しです。
課題ですが、同時に参入障壁です。
橋本 完全栄養食としての、賞味期限の長いパンはベースフードだけです。
モノポリー(独占)であり、それは複雑だからです。
以前、ICCサミットのLTVについてのセッションで、ベースフードには、LTVを伸ばすためのトリガーが多いと一休の榊(淳)さんに言われたことがあります。
日本農業のケースもそうですが、製造、梱包、配送、販売の全てのプロセスで効率性を上げられるので、それぞれが成長率を上げることにつながりますよね。
そういう要素が、ベースフードにもあります。
西井 なるほどね。
橋本 それは伸びしろだと思います。
タイでの自社ブランド販売
西井 事前に皆さんと話した時、回り道してしまったという意見がありましたよね。
よければ、失敗したことを教えてもらえますか?
内藤 はい。我々の場合、創業時は、選果、梱包、販売の間に、つまり、誰かが箱詰めしたものを我々が商社として仕入れて輸出するという構図で参入しました。
しかしそれだとバリューチェーンに作用できる範囲が狭いので、上にも下にも広げようと考え、生産も選果も行うようになりました。
販売については、自社ブランドを、Eコーマスやタイでフルーツショップを経営するなど、消費者に直接売りました。
強い仮説を持っていたので、川上より川下に張っていたのです。
しかし、外国でタイ人を雇用してオペレーションを組みながらタイ人の消費者に売るという行為が、日本の会社として僕らが持っているケーパビリティからは離れすぎていて、うまくいきませんでした。
ですから今は、川上に張って、販売の部分はパートナー企業をうまく選定するという方向に行っています。
でもシーベジタブルの話(Part.1~2参照)を聞いて、最後に強いというか、一番尊いのはマーケットを作ることだと思いました。
インドにも輸出できるようになりましたが、インドはあまり日本のりんごを買いません。
そういうとき、マーケットを作ることができれば自分たちが何かできるのですが、パートナー企業に任せるだけだと、打つ手がなくなってしまいます。
販売は、持てれば良い機能でしたが、そこにこだわって10億円を投資しましたが、2、3年で停滞して……。
西井 停滞したという話を先ほど聞いたので……やってみたけれどうまくいかなかったので、他に集中した結果、再度成長したということですね。
▶タイで日本品種いちご収穫・販売 2回目のシーズン開始 日本農業(農業協同組合新聞)
内藤 そうですね。
西井 ありがとうございます。では橋本さん、お願いします。
(続)
編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成