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ヘラルボニーが優勝! 大志を抱くカタパルト・グランプリ挑戦者たちが目指す世界とは

9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、過去最高のハイレベルな激戦を勝ち抜き、ヘラルボニーの松田 崇弥さんが優勝を飾ったDAY2のカタパルト・グランプリの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


今回のICC KYOTO 2024で、始まる前から話題になっていたカタパルトが、DAY2の9月4日に開催されたカタパルト・グランプリである。そもそもグランプリは、他のカタパルトで上位入賞歴、もしくは同レベルとされる登壇者ばかりであるが、今回は本当に優勝が見えないと言われていた。

▶️【速報】障害への支援的な構造を逆転するアートIPカンパニー「ヘラルボニー」がカタパルト・グランプリ優勝!(ICC KYOTO 2024)

登壇者に拍手を贈る恒例のセレモニー

どこが優勝しても妥当な企業ばかり。リアルテック・カタパルトで優勝しているEF Polymmerエイターリンクは、間違いなく私たちの未来を変える技術と展開力を有し、前回スタートアップ・カタパルトで2位だったFerroptoCure、SaaSカタパルトで優勝のエスマット(旧スマートショッピング)など、群雄割拠の様相である。

Unitoのように3年半前の登壇では無冠で終わっていても、順調に事業が成長しているところもあれば、初参加の企業もいずれも実力者揃い。そして、何といってもヘラルボニーである。

登壇を待つ松田 崇弥さん

ヘラルボニーは3年半前のICC初参加でカタパルト・グランプリ3位、ソーシャルグッド・カタパルト優勝と、鮮烈な印象を残した。それからの活躍はご存じのとおり。東京パラリンピック閉会式でさらに注目され、JALのアメニティや、最近ではLVMHイノベーションアワードのファイナリストになるなど、唯一無二の存在感と国境を超えた活躍を見せている。

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そんなヘラルボニーが今またなぜ、カタパルトにチャレンジしようとしているのか。

登壇するチャレンジャーたちは、自分たちが社会にできることがあると信じて、それを伝えたいとここまで来ている。彼らは何を信じて、何を伝え、実現したいのか。7分間では伝えきれない想いを聞きに、限られた時間で登壇する6名に話を聞くことができた。

優しいサービスを作るときこそAIの出番(HQ坂本さん)

信念あるエンジニアは、技術の先にある理念を語る。HQ 坂本 祥二さんは、LITALICOモルガン・スタンレーカーライルといったキャリアだが、エンジニアのような話をしていた。M&Aでテクノロジー業界に携わっていたというが、きっとエンジニアたちと話が合ったのだろうと推察する。

「AI企業がやるものはテクノロジーの人たち向けで、社会課題解決の現場へ行くような話とは別だと誤解されがちなんですが、あえてテクノロジーの最先端こそ、社会課題を解決する一番の鍵であるということを伝えたいです」

ICC初参加のHQは、AIを活用した企業の福利厚生サービスを作っている。福利厚生というと、ありがちなメニューが並び、活用されるのは一部だけというイメージ。HQでは人事戦略を反映した福利厚生メニューやパーソナライズが可能で、ユニークなところではリモートワークの環境整備などもできる。スマホ対応、Amazonとのポイント連携も可能で、利用率はなんと8〜9割だという。

「『これは半導体を使っている』と誰も言わないように、AIも意識しなくなっていくと思う。社会課題領域に関わって長いのですが、人力でやるのが最大の問題だと考えていて、それだといつまでたってもサステナブルにならない。ラストワンマイルを最適化するにはAIが非常に相性いいので、真剣に取り組んでいます」

具体的なサービスについての話をしていても、その背景にある想いの話に必ず行き着く。それが届くから、「福利厚生をコストから人への投資へ」というスローガンに説得力があるのだろう。全社員に平等に、同じ権利というのが福利厚生のイメージだったと伝えてみると……。

「それは与える側の満足で終わってしまうし、忙しい人ほど使えない。インターネットがもたらしたのは画一化でしたが、AIは個別最適化なので、各人に届く優しいサービスを作っていくときに活かせる。AIは機械的な作業を代替するといわれますが、むしろ個別化こそがAIの出番だと思うんです」

これまで手間もかかるし放置していたような人類の負、生きにくさなどの分野にもAIは非常に活かせることを知ってほしいと、熱く語る坂本さん。現在の事業の先にあるビジョンが見えているようだった。

慢性疾患を癒やす、「菌」の可能性(KINS下川さん)

プレゼンでは審査員席に菌の検体キットを配布した

KINS 下川 穣さんは、白衣を手に会場に現れた。私たちは約1,000兆個の菌に囲まれて生きているが、下川さんはその菌を活用して、慢性疾患の改善に取り組んでいる。

下川さん「アレルギー疾患とか膠原病といった自己免疫疾患、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎のような重度の難治性の慢性疾患があります。患者さんに合った菌を飲んでいただくと、症状がガラッと改善するという原体験があって、ぜひ広げたいと起業しました。

従来の治療は対症療法がメインなのですが、菌(マイクロバイオーム)を使った薬が出てきています。我々はマイクロバイオーム創薬事業もやっています」

自己免疫疾患について、最近耳にすることが増えているが、その理由は診断力が上がっていることと、食の欧米化によるところがあるのだという。

「日本人はもともと非常に腸内環境がいいんです。発酵食品を食べるなど日本の食事がそもそも良くて、だから世界で長寿ランキング1位なんです。ところが欧米食の広がりで腸内環境が悪くなってきていて、5年前、10年前より今のほうがそういった疾患の方が多くなっています。

皆さんが実感するのはお子さんのアレルギーじゃないでしょうか。自分たちが子どもの時は、アトピーぐらいしかなかったですよね。

菌はニキビや美容、老化など、女性や一般の方が関心のあることにもすごく影響しています。一番身近なところからスタートしてそういう病気にならないように予防するのと、すでに病気になってしまった人を改善する両方にインパクトがあるので、その素晴らしさを少しでも伝えらえれば」

まず個人の常在菌のバランスを見える化したうえで、フィットする菌の薬をマッチングをするそうで、この方法は「漢方の上位互換みたいなイメージ」だという。菌による体質改善というところだろうか。予防領域から治療領域までカバー範囲は広いという。

現在は日本で動物病院、シンガポールでニキビ治療専門のクリニックを運営。創薬、R&D、マイクロバイオームを活用したヘルスケア商品なども開発し、従来治らなかったものを治す可能性を広げている。

夢の技術の実装も、日々の積み重ねから(エイターリンク岩佐さん)

登壇前の確認をする岩佐さん

1点差で3位となったエイターリンク岩佐 凌さんは非常に悔しそうにしていたが、それは自分の事業の社会的意義を誰よりも信じているからである。

岩佐さん「今5年目なんですけど、僕が知らないところで当社に期待いただいて、サポートいただいていることがたくさんあると最近感じています。今回はそういう人たちに、ここまである程度のところまできたことを知ってもらえばというのが1つ。

もう1つは技術系の会社ですが、技術でしかできないことがあると思っていて、世の中の富の移動ではなくて富の創造みたいなところに、頑張っているやつがいるんだなみたいなところを知っていただけたら嬉しいなと思っています」

岩佐さんの口調はマシンガンのよう。同様に事業の進捗も目覚ましい。

「ワイヤレス給電について、日本の法律を変えられて、世界の法律も作れることになりました。主導しているワイヤレス給電の開局数も爆発的に伸びてきているので、今まで夢の技術だったものが現実のものになっています。

増えていくとはいえ、まだまだお客さんからの要望もたくさんあるので、技術的にもプロダクト的にも改善をしていくところはたくさんある。とにかく目の前の課題を1個1個乗り越えていくという感じです」

エイターリンクは電波でワイヤレス給電しているが、プレゼンにもあるとおり、電波の使い方は国連で決まる。新しい技術のルール作りといった上流から自分たちの技術まで、岩佐さんたちの仕事はピンからキリまで終わりがない。

▶️工場からオフィス、医療まで、ワイヤレス給電の社会実装を牽引する「エイターリンク」(ICC KYOTO 2024)

「例えば宇宙と地球の通信の仕方などはグローバルなことなので、国連の一機関で決まるんです。4年に1回しか改正が行われなくて、僕が最初に行った時は200カ国に反対されたのですが、5、60カ国の政府と直接交渉して、その後スペースXと並んで、ワイヤレス給電が国連の規格として採択されたんです。その交渉はめちゃめちゃ大変でしたね」

開発やテクノロジーのスピードは日進月歩のイメージだが、新しいルール作りにはそのくらいの歳月がかかるものだそうである。

「テクノロジーの進化って多分それぐらいのスピードでしか分からないというか、日々の積み重ねなんです。大きい社会実装のレベルまで行くと、それぐらいの期間はかかる」

次の4年先に見据えているものを聞くと、私たちが直面する課題への1つの解決策が返ってきた。

「宇宙から給電したい。宇宙から地球、人類へのワイヤレス給電をやりたいと思っていて、例えば、能登半島の地震では電力インフラが遮断されましたが、宇宙から給電できれば電力インフラをすぐに届けられる。戦争で火力発電所が無くなってしまっても、電力が届けられる。そういうところで貢献していきたいと思います」

ワイヤレス給電とはそういうことなのかと改めて驚かされる。私たちの社会の進化は、岩佐さんのような人たちがいて、こんなふうに進んできたのだろう。

「5年前にワイヤレス給電で創業した時は誰からも反対されました。宇宙給電と言ったら、おそらく今はバカじゃないのってみんな思うんですけど、でも4年間頑張れば……」

できるかもしれない。

「そうです。だから、そこまで突っ走っていきたいなと思いますね」

世界唯一の有機ポリマーが未来を変える(EF Polymer下地さん)

本番前にプレゼン練習中。右側にはエスマット林さんの姿も見える

いつも自信にあふれて笑顔のEF Polymer 下地 邦拓さんだが、グランプリ登壇を控えていつになく真剣な表情だ。さらに集中を高めるためか、会場の後方に移動してプレゼンを練習している。

「僕らはディープテック、世界で唯一の有機ポリマーが未来を変えるというのを伝えたい。台風も干ばつもあり、日本は水がたくさんあると思ってるけど実は水がない地域もある。日本人は案外忘れているけれど、食もたくさん輸入していて、これはヤバいんだというのに気付いてほしい。

時間がかかるかもしれないけど、根底から産業を変える可能性があるテクノロジーというのに気づいていただけたらいいかなと思います」

食物の残さを活用した保水性の高い有機ポリマーを土壌に入れると、水や肥料は地下水に流れて行かずに留保され、農作物の生育を助けるという仕組み。これが従来の吸水ポリマーだと作物や土壌への影響も心配されるが、原料はオレンジの皮などの食物由来のため、土へ還っていく。

▶️世界のどこでも地産地消できる土に還る吸水性ポリマーで、持続可能な農業の実現を目指す「EF Polymer」(ICC KYOTO 2024)

「前回お話してない農業以外の可能性もたくさんあって、今日はそれを話します。化粧品の増粘剤とかシャンプーをドロッとさせるのとか、保冷材の中身とか、あとは将来的にはおむつとか生理用ナプキンの吸水シートなどを替えていけるんです」

世の中にオーガニックの製品が続々と増えているのを見ると、需要は確実にありそうだ。となるとどのくらいの生産力があるのか気になる。

「前回登壇した時は月産20トンでしたが、今は500トンまでできるので、年間6,000トンまでなら生産可能、原材料の確保も済んでいます。食物残さが出るところであればどこでも、しかも安く作れるところがポイントです」

量産化も進んでおり、聞く限りは良いことづくめ、もしも既存のポリマーと置き換えが進むとしたならば、製造を行う企業からはどう見られているのだろうか?

「まだ彼らが作れていないような有機ポリマーなので、一緒にどうやるかという世界観を創っていける。実際に世界最大手との議論も進んでいます。ディスラプティブテクノロジーって、そんなにたくさん出てくるわけじゃなくて、このポリマーは本当に世界唯一。だから可能性はすごくあると思っています」

アナログに近づく日本らしいデジタルで、世界を目指す(エスマット林さん)

カタパルト終了後に、ほっとした笑顔を見せる林さん(写真中央)

ICCでは「載せたままでネジの個数をカウント」IoT重量計でお馴染みのエスマット 林 英俊さんは、SaaSのカタパルトで優勝して、グランプリまでやってきた。「SaaS、DXから来た僕が言うのも何ですが、社会性の強い企業が多くていいですね」と言う林さんの、登壇にかける意気込みを聞いた。

「僕は自分のサービスを良くしたいというのもありますが、もっと製造のDXが業界として進むといいなと、そんなきっかけになればいいなと思っています」

▶️IoT重量計でリアルタイムに在庫管理、日本式の製造DXを推進する「エスマット」(ICC KYOTO 2024)

以前はAmazonでプロダクトマネジメントを担っており、消費も残量も見えないという課題から、「実物を24時間365日見つづければ、在庫管理の課題は決して起こらない」という信念のもと、IoT重量計を作った。現在は製造業の領域に注力しているという。

「僕が最近イメージしているのは、優しいデジタル。デジタルがここにいて、『みんな分かってねえなあ!ついてこいよ!』みたいな感じだとダメで、優しく近づいていかなければと思っています。

Amazonでその辺のB2CのUIをよく分かっている中で、DXとなると、あんな難しいもの使えないよなって思います。だからデジタル側がアナログ側に近づいていくことがもっともっとあってもいいかなと、それを自分は在庫管理のところでやるつもりでいます。

製造業の世界では、ドイツはすごい、日本は超遅れている、ヤバいぞみたいな話が多いんですけど、そういうところもあるけれど、日本は日本の良さを生かした何かをやらないといけない。それに、日本の経営者たちは、難しくて今までの現場の働き方に合わないものを入れていない、あえて入れない選択をしているような気がするんです。

それが遅れているとか、日本は古いとか言っているけど、現場が強いし、機械の取り方も違うし、そういう日本の改善文化みたいなものを殺してしまうようなものが来るのなら、多分入れないのだろうと思っていて。

そこを標準化して改善やめなさいと言っても、多分変わらないですよ(笑)。僕はそれが失われるのがすごく残念だと思っています」

林さんがしているのは、日本の製造業の強さの話だ。常に新しいものは生まれてくるが、それに安易に流されず、それを取り込みながら日本が何を守ってきたから世界と並ぶまで成長したかを話している。

「ポルトガルから来た火縄銃は、日本人がその後改良しまくった結果、戦国時代には世界最強の武器だったらしいんですよね(笑)。

▶️欧州をしのぐ精度の鉄砲、鍛鉄で量産した戦国日本 独自の発達、イタリア商人「この国は世界で最大の武器供給国である」(ZAKZAK)

ゼロイチは確かに苦手かもしれないけれど、そこから良くするっていうのはすごいし、明治の八幡製鉄所もそうで、ドイツから炉を入れたけれど日本の石炭には合わずに全然品質が出なかったところを改善しまくったんです。

モデルを持ってきたドイツ人技師が数年後に小倉に戻ったら、これはどこから買ったんだ?って言うくらい魔改造されていて、そうやって日本の産業が始まったんですよ。それはもう500年前から、ずっと続いていることなんです。

インバウンドがあると言っても、日本が一番強くて誇りに思えるのはものづくりで、GDPの2割もここ、外貨もほとんどここで稼いでいて、逆に僕らみたいなソフトウェア産業が赤字を垂れ流して結構迷惑かけてる(笑)。だからやっぱりこの屋台骨をなんとかしないといけないんです。

DXでも直感的にわかるもので歩み寄っていかなければいけないし、日本人は使いこなせるものを渡せば、めちゃめちゃ改善する。いまだにダントツの世界一を誇っている産業で、僕らのプロダクトが鍛えられたらと思います。ものづくりの日本のよさが生きたもので、世界を取りに行きたい」

以前は別の業界に注力していたが、1年前に製造業にシフト、この想いを伝えたところ大手も含め次々と契約が決まったそうである。「思想をわかってもらえて、これが求められていたんだなと」と言う林さんは、ホームグラウンドを見つけたような笑顔を浮かべた。

社会性だけでないところも評価されたい(ヘラルボニー松田さん)

登壇前のリハーサル中

そして、今回優勝したヘラルボニーである。

松田 文登さん、崇弥さんで印象的なのは、前回2月のICC FUKUOKA 2024が終わって福岡空港でばったりと鉢合わせたときに、挨拶もそこそこに「次のカタパルトに出ます!」とふたりとも争うように言ったこと。

優勝後のコメントや、ICC小林 雅もイベントのときのスピーチなどで語っているが、半年前のカタパルト・グランプリで3位に入賞したSHE福田 恵里さんのプレゼンに感激したからだそうだ。崇弥さんにそのときのことを聞いた。

▶️リスキリングプラットフォーム「SHElikes」で、女性がより活躍し、自己実現できる社会をつくる「SHE」(ICC FUKUOKA 2024)

「うちよりも全然規模も大きくて、もう出る必要ないくらいなのに挑戦していて、自分も挑戦者でありたいなとすごく思ったんです。もう1回ソーシャルグッド優勝をとも思ったんですけど、カタパルト・グランプリで優勝できたら本物だと思ったので、頑張って準備してきました」

過去に優勝したのは文登さんで、今回は崇弥さんが初登壇。プレゼンの前夜もフィードバックをもらい練習したという双子だが、文登さんが「優勝したのは自分だ」と言い続けているため、崇弥さんはなんとしてでも優勝を勝ち取りたいという。

チャレンジャーズナイトでは、今回のプレゼンについてこう語っていた。

「(ICC小林)雅さんからもらったフィードバックをかなり忠実にやってます。それで資料を作り替えて原稿を作ってピッチ練習。売り上げの数字なども出したほうがいいということで、今まで非公開だったものもバンバン出します。

▶️「障害=欠落」を変えるブランドへの挑戦! 支援的な福祉から、持続可能なビジネスを作るアートIPカンパニー「ヘラルボニー」(ICC KYOTO 2024)

3年前の第1回目のソーシャルグッド・カタパルトで優勝させてもらった時は、ソーシャルなのにすごいというような社会性が評価されたと思っているので、今回は成長性とか経済性とか、本当に世界に行くと思ってもらえるような戦略を見せられるかが勝負だと思っています。

今までこういったピッチでも想い一本勝負だったので、今度はだいぶブラッシュアップされていると思います。優勝できるといいんですけどね」

ICCでは誰もが知っている、ファンの多いヘラルボニー、登壇を待つ崇弥さんのもとには、ひっきりなしに誰かしら訪れている。登壇前に自信のほどを聞くと、「私の中では過去最高のプレゼンができるという自負はあって、そのぐらい準備はしたと思っている」と、落ち着いて答えた。

審査員たちのコメント

異業種対決であり、各ジャンルの最高レベルといっていい、カタパルト・グランプリの12社のプレゼンは、中継動画を見ていただければすごさが伝わると思う。1人目のプレゼンは、動画の20分ぐらいから始まる。

審査員たちは過去最高レベルの登壇者たちを称賛した。

海外在住26年のWiLの伊佐山 元さんは「シリコンバレーだとSaaSやAIばかり。ヘラルボニーやEF Polymerのように、日本の技術で世界へ、日本の強いテーマを海外に持っていくというのがすごくいい考え方で、実際行けるんじゃないかと思います」とコメント。

Boost Capital小澤 隆生さんは「プレゼンのうまさで勝負が決まっていた時代があったが、本当に内容が見られるようになり、順位はつきますが、本当に全員優勝です。出せるものなら皆さんに100億円出したい、そのくらい価値がある」。

アジアを拠点とするリブライトパートナーズ蛯原 健さんは「明らかにフェーズが変わり、海外を目指すから、すでに着手していて、スタートアップのグローバル化を象徴しているような回」、オルビス小林 琢磨さんは「日本か世界かではなく、ウェルネスや価値観をアップデートしているものが多い」と、ともに登壇企業のレベルの高さに感嘆した。

ソラコム玉川 憲さんは「EF Polymerは、地球にすごく大きな変化をもたらしてくれるんじゃないかと期待します。KINSはこんなアプローチがあるのかと驚きました」、ビザスク端羽 英子さんも「応援したくなる会社、この人が作る未来を見てみたいというところ選びました」と同じくEF Polymer推しを明かした。

ベインキャピタル西 直史さんは「普段は1,000億、1兆円というお金を投資していますが、3年後、5年後そういう規模になり、我々に投資の機会をいただけたらという会社がいくつもあった」と言い、ゴールドマン・サックス松本 哲哉さんは「実現可能性や、マネタイズが判断基準ですが、とっくにその段階を突破していて、なぜ今登壇しているのかと思うレベル。ぜひ個別にお話を」とコメント。カタパルトの審査員には投資家も数多くいて、最高のプレゼンをすることでこうして見つけてもらう機会にもつながる。

審査員コメントの最後を締めたのはラクスル福島 広造さんで、「他のピッチだと絶対出てくる生成AIが1つも出てこないのがICCらしい。素晴らしかったのは、最後のヘラルボニーのプレゼンで社会性で認められながらも、経済性を合わせて事業にしていく、その両方をちゃんと追求するというところです」と、審査員たちの気持ちを総括した。

「ともに学び、ともに産業を創る。」には、障害のある人も必ずいる

▶️【速報】障害への支援的な構造を逆転するアートIPカンパニー「ヘラルボニー」がカタパルト・グランプリ優勝!(ICC KYOTO 2024)

5位エスマット、4位FerroptoCure、3位エイターリンク、2位EF Polymerが発表されると、会場はもう優勝がわかった雰囲気になった。ヘラルボニーが来るぞ、という雰囲気のなか優勝が発表されると、会場は温かい拍手に包まれた。

優勝発表の瞬間!

登壇前の緊張も見えず、プレゼンの最後で一瞬声を震わせた崇弥さんは、いたって冷静に見えた。しかし再び優勝者としてスピーチを求められると、胸に込み上げるものがある声で、はっきりとこう伝えた。

「聞いていただき、ありがとうございました。

ICCは、自分たちの人生の分岐点のようなものです。

創業したのはちょうど6年前くらいで、最初の2年間は、デットファイナンスでちょっとずつ事業を伸ばしていて、ある企業の社長に、なぜ何百億も何千億もの事業計画を描いていないのかという話をされました。

それから思い切りこれをやろう、社会を変えられるってどういうことなんだろうと真剣に考え、双子で事業計画を書くようになりました。

その時に調べて出てきたのがICCで、双子の文登が直メッセージをさせていただいて、カタパルトに出させていただいたのが始まりだったと思います。

ICCの『ともに学び、ともに産業を創る。』という言葉、そこに障害のある人も必ずいると思っています。

障害のある人がいるから、私たちはIPOができて、企業価値も向上しているといえると本気で言えるような世界を、経済性を逃げずにやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします」

気負っていないのに、いつも本質的な言葉で語り、ぶれない。それがヘラルボニー、この双子の凄さである。2021年のソーシャルグッド・カタパルト最後の文登さんのスピーチもそうだが、聞く側の良心を刺激するような力があり、今回のプレゼンではただ社会的に素晴らしい事業で終わらない覚悟も語った。

話を聞いたどの企業も、いずれも素晴らしい思想や技術持つ企業であり、その挑戦を応援せずにはいられない企業ばかりだった。話を聞けなかった企業も、必ず彼らなりのストーリーと覚悟を持っている。だからこそ作った事業が求められ、この頂上決戦までやってきたのである。

優勝後、フード&ドリンクアワード会場にて。左が文登さん、右が崇弥さん

ICC史上初、おそらく先にもない双子の優勝という記録を作った文登さん、崇弥さんは、カタパルト終了後、フード&ドリンクアワードで試食をぱくついていた。カメラを向けると笑顔でポーズを決めてくれる。事業、強いメッセージ性、他にはないブランドと、いまや唯一無二のカリスマ性さえ感じさせるふたりだが、こんな気さくなところも彼らの魅力で、皆から愛されている。

障害を社会的障壁として捉える「社会モデル」として、「障がい」ではなく「障害」という言葉をあえて使い、大好きなきょうだいのために、家族のために、仲間たちのために、新しい産業のために、半ば周知の事実のようになっていた概念に問題提起する。

▶️【あえて「障害」と表記することについて】(ヘラルボニーのXより)

ビジネスモデルを実行するだけでなく、ヘラルボニーが目指す世界の最終ゴールは、障害を持つ人の人権感覚を前に進めるブランドとなること。言うまでもなく大変な道なのだが、彼らには悲壮感がなく、驚くほど軽やかに見える。そんなところにも、彼らは本当に世界を変えるかもしれないという期待を感じずにはいられないのである。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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