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2月13日~16日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、2月14日に開催し、リージョナルフィッシュ梅川 忠典さんが優勝を飾った「スタートアップ・カタパルト」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
全員のプレゼンが終わり、肩の荷が下りたように、審査員のコメントに笑顔になるスタートアップ・カタパルトの登壇者たち。今回のチャレンジャーたちはいつにも増して自分の持てるものすべてを出し切ったように見えた。
スタートアップ・カタパルトのナビゲーターを務めるICC代表の小林 雅の最初のスピーチは、台本がなくその時に出たものを話しているというが、ここ数回はより審査員に対するメッセージが強くなっている。
ライブ中継され、後日動画や記事となって公開される登壇者のプレゼンはこの場限りのものではない。次の登壇者の学びになるだけでなく、それを見た若者や子どもが社会課題に気づいたり、起業家を目指すきっかけになり、実際にそういう例も聞くようになった。
「昨日の前夜祭で、君たちは日本を代表する起業家になるんだ、そのために恥ずかしいプレゼンをしちゃいけないと伝えました。
自分の事業だけじゃなくて、これから生まれる事業にも責任を持つ、5年後にあなたのプレゼンを見て起業したということになったら、嬉しいじゃないですか。
そんなエコシステムをこの会全体で作る。僕はそういう責任を果たせる起業家10人を選んだつもりですし、その順番を決めるのは審査員の皆さんです。
ぜひこの人を日本の代表にしたいという視点で選んでほしい。審査員ではない方でも、単に見て面白いなと思うだけでなく、この会社を支援したいとか、いいなと思ったら本人に声をかけてほしい。あなたが起業家に掛けた一言は、社会を変えます」
力を出し切って清々しい表情のチャレンジャー10名に、数年前までは舞台側にいた人も多い審査員たちは、最大の賛辞と応援を伝えた。チャレンジャーたちが挑む事業に興奮し、自らも奮い立ったことは声音からも明白だった。
プレゼンは現在アーカイブで公開しているカタパルトのプレゼン映像を見ていただきたい。プレッシャーにも負けず、力強く未来を語るプレゼンばかりである。そして10名のプレゼンターがどんな想いで登壇したかについて、続きを読んでいただければ幸いである。
自分の事業で社会の課題を解決する
2月14日、火曜日。ICCサミットメイン会場の朝は早い。前夜のカタパルト・アワード前夜祭から一夜明けて、12時間もたたないうちに、スタートアップ・カタパルトの登壇者たちはヒルトン福岡シーホークに帰ってきた。
実は前夜祭の前、workeasyの佐治 浩一郎さんとワンインチの柴田 耕佑さんは自分がプレゼンをする会場を確認しに来ていた。壇上に立って会場を眺め、演台を確かめて、軽くリハーサルをしていた。
しかし今日の空気感はまったく別もの。自分が見つけた社会を変える事業を全力で訴える場が、あと2時間後に迫っている。
▶【速報】ゲノム編集技術による水産業革命で、世界の“タンパク質危機”を解決する「リージョナルフィッシュ」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC FUKUOKA 2023)
プレゼンの資料を投影したPC画面に集中しているように見えるが、その先を見ているような登壇者たち。視線の先は舞台ではなく社会を変えることだ。緊張感はあっても、事前のイベントなどで顔見知りにもなっているため少しだけ和やかな雰囲気もある。順位がつく以上は競争だが、次の時代の産業を創る仲間でもある。
自分の手で課題を解決する手応えと喜び、それが未来を変えていく期待ーー今回の登壇者の共通点だ。スタートアップ・カタパルトの開幕を待つ間、彼らに話を聞いた。
1個の課題に10年かけるより、10年で1万個の課題を解く
「昨日は寝ていないです」
そう言ったSolafune上地 練さんは、少年のような顔立ちだが信念の強さを感じる人である。世界中のエンジニアが集う衛星データのアルゴリズム開発コンテストの場を作り、それをスコア化して、優秀なソースコードを買い取って販売するというのがビジネスモデルだ。
「Solafuneを作った理由は、自分がコンテストに参加していたし、自分たちでコツコツやるよりも世界中でやった方がいいものが出てくるというのが肌感であったから。大学では世の中で起こってることを数式でモデル化するみたいなことをしていたので、これをより大規模でやったら地球のことがわかるのではと考えました。
具体的にこれを解決したいというより、僕は社会課題をたくさん解決できるものが作りたい。飽き性でもあるので、1つの課題を10年かけて解くより、10年で1万個の課題を解けたら面白いと思っているので、その仕組みを作りたい。
今日伝えたいのは、この領域のポテンシャルと、儲かる儲からないよりもやらざるを得ない領域だということです。宇宙産業は領土取り合いゲームのようなもので、気づいたら全部領土を取られていた、ということになりかねない。確かにこれはやらなければいけないと思っていただけたら。
それに、世界で一番いいものを作るためにエンジニアを奪い合うことはソフトウェア的ではなくて、世界で一番いいとされたことを、みんなで使うほうがいいんじゃないか。そもそもソフトウェアってそういうことだと思うんです」
現場を助け、欲しいものを作り続けられる幸せ
MagicPod伊藤 望さん「エンジニア業務で大きな割合を占める、ただひたすらやるだけ作業みたいなテスト業務をなくせば、効率が良くなるだけではなく、開発プロセスそのものが変わる。エンジニアがすごく生き生きと働けるようになってやりがいがアップする。数字で見える部分だけではないところをプレゼンの最後に伝えられたらと思います。
自分にも経験があるのですがテスト作業はしんどいし、改善をしたくてもテストが大変すぎてできないということがありました。ちょっと直すだけなのに、そのあとやるテストを考えると踏み出せないなど、製品をよくするという気持ちが失われていくのです。
エンジニアはもっとクリエイティブな仕事にフォーカスしたいという気持ちがあります。それに何度も繰り返すような自動作業はコンピューターが一番得意なところです。
だからそれを助けるような物を作ること、今もこうして欲しいものを作り合い続けられることは、すごく幸運だと思います」
▶ソフトウェアテストの自動化で、エンジニアの生産性と創造性を高める「MagicPod」(ICC FUKUOKA 2023)
高レベルの争いで負けても悔いはない
「プレゼンって、左側でやってるときに、右側で準備しているのね。うるさくないの?」
「登壇順は? あー、なるほど、こちらが奇数で、あっちが偶数の登壇順の人が座っているのか。よーしどっちサイドが勝つか見ていただきましょう!」
カタパルトは団体戦ではないのだが、リージョナルフィッシュ梅川 忠典さん、ペイトナー阪井 優さん、ワンインチ柴田 耕佑さん、PetVoice深田 篤さんが談笑している。
梅川さん「僕、ピッチ大会で優勝しかしてないんです。でもここで土をつけるならもう悔いなし! ICCならば負けてもいい」
「確かに」と口々に声が上がった。「出ることに価値がある」
ICCはそんなイメージかと尋ねると、再び口々に「どのピッチコンテストより一番レベルが高い」「参加費も高くて(※登壇者は無料)、みんなそれなりの想いを持って参加している」と続く。
エビデンスに基づく高品質のCBD(※植物由来で不安や緊張を和らげる成分が入っているとされる)プロダクトで、スポーツ選手を中心に高い支持を得ている柴田さんは、昨晩の前夜祭のあとは株主とZOOMで話し、CBDを飲んで休んだという。「よく眠れるのに、目覚めスッキリです」と言って、仲間たちにCBD入のグミを勧めている。
それを受けてペットの健康管理デバイスを作っている深田さんは「CBD、動物もいけるんですよ。実際使っている。てんかん持ちで震えてしまう犬や、高齢になって食が細くなった犬猫の食欲回復に効果があります。保護犬とか、無駄噛みしちゃう子に与えると、リラックスして噛まなくなる。柴田さん、ぜひデータをとってください!」
▶獣医師に必要なデータを取得できる超小型デバイスで、ペットの健康を守る「PetVoice」(ICC FUKUOKA 2023)
それを笑顔で聞いていた毎月の請求書&支払いサービスを手掛ける阪井さんは、「化け物スタートアップですよ、トラクションありすぎてびびる」とみんなに言われて笑顔。こんな雑談が、登壇前の落ち着かない時間を埋めていく。
▶請求書の回収から支払いまでを自動化し、お金にまつわるストレスをなくす「ペイトナー 請求書」(ICC FUKUOKA 2023)
元プロボクサー、15年ぶりの“リング”に賭ける本気
登壇者が待機するステージのもう一方の側に来た。ずいぶん早くからworkeasyの佐治さんは到着している。ascendの日下 瑞貴さんも早くからいて、カメラを向けるとにっこりポーズをしてくれる。日下さんは、ひと目でわかる同じユニフォームの応援団が会場に来ており、仲間と記念撮影をしていた。
赤い髪の佐治さんは、東京のオフィスでのワークショップのときは所在なさげな様子だったが、今日は落ち着き払っている。
「もうやるべきことはやった。
妻がプロの司会者なんです。だから話し方や言葉などを教えてもらって、何回も何回も構成を考え直し、字数を半分に縮めたりしました。2人でカラオケに8時間くらい籠もってプレゼン練習、それを3回ぐらいして、言葉を一語一句変えて、うちのおばあちゃんに聞かせてもわかるぐらいになりました。
音楽のサービスで、アプリで、音楽で生活できないミュージシャンが収益を上げられるためにやっているなど、誰にもわかるレベルにした。それも妻のおかげです。あとは三輪(開人)さんと小林(雅)さんのおかげ。
1月の必勝ワークショップのときは、まだプレゼンが完成もしていなかったし、たくさん練習していないときのリハーサルはすごく緊張しました。あれが一番緊張した。
めちゃくちゃ練習したから、今はあまり緊張はしていないです。練習するとあまり緊張しないものですね。本番で力を発揮するというより、練習のとおりやればいい。多少は緊張するかもしれないけど、吐きそうになったり言葉が震えることはない。
プロボクシングから引退してから15年、久しぶりにリングに上がるという気分です。15年ぶりに戻ってきたというか……またこういう場に立てるとは当時は思っていなかったです。
今回は3分でなくて7分。楽しみます」
そう言ってヘッドフォンを頭に戻して自分の世界に入った佐治さん。人生を賭けた7分間、今回はゴングの代わりにタイマーが鳴る。
「喜んでくださる顔を見るとやめられない」
MizLinxの野城 菜帆さんは、この1カ月前にリアルテック・カタパルトにも登壇することになった。水産業者向けの海洋計測システムを作っている。
「コロナの時期の起業で、プレゼンをする機会があっても多くてせいぜい100人ぐらいだった。緊張するタイプで、それでもだいぶ慣れてきましたが、ここは緊張しますね。でも失うものは何もないので、がんばって出し切って、私たちがやっていることを届けることを目標に来ました」
野城さんのプレゼンでは、まるでサークルの仲間たちと遊んでいるかのような、MizLinxの黎明期の様子が紹介される。現在提供しているシステムの原型を作っているときのものだそうだ。
「仲間と一緒に作りまくっていました。あれが原点で、寝ないで作っていたんです(笑)。
一番最初は、ホームセンターで買ったとりあえず水を防ぎそうな衣装ケースに、からまりまくる配線が入っているようなもの。今は防水設計で中の配線もちゃんとしているのですが当時はそんなノウハウもなくて、取れるデータも今より少なくて水温だけ、有線でつながないと見られないようなものでした。
事業化いけるぞとなったのは、ヒアリングができるようになってきて、未踏アドバンスド事業に採択されたとき。それにユーザーさんの顔を見るとやめられない。たまにはつらいこともあるけれど、喜んでくださる顔が見れるとやめられないです。
今は温度、酸素量、塩分濃度、PHなども見られます。人工衛星で海の表面はだいぶわかるようになってきたのですが、海の中はまだわからないことが多いんです。取れるデータから、魚の突然大量死など、だんだんわかってくるかもしれません」
▶従来製品の約3割価格、水中環境のモニタリングデバイスで養殖業の生産性向上に貢献する「MizLinx」(ICC FUKUOKA 2023)
登壇者に話を聞いていると、前回優勝した寝具再生のyuniの内橋さんが独特の雰囲気を漂わせながらやってきた。前回は有無を言わせぬ迫力あるプレゼンで優勝を獲得したが、今回は優勝者にウィナーボードを渡す役割をする。ドキュメンタリー用のインタビューに余裕の表情で答えている。
優勝する人は何かしらオーラがある。緊張していたとしても、自分の事業への強い確信があり、必ずこの先の社会を変えると信じて疑わないように見える。今回話を聞いて特にそれを感じたのは、Solafune上地さんと、ALGO ARTISの永田 健太郎さん、そしてリージョナルフィッシュの梅川 忠典さんだ。
入賞した人には多かれ少なかれそんな雰囲気がある。4位に入賞したascendの日下さんも印象的で、優勝ではないとわかった瞬間の非常に悔しそうな表情が印象的だった。今回惜しくも入賞しなかった方々にしても、今回よりさらに機が熟してくるとそんなオーラが増してくるに違いない。
「世の中を変えていく実行者になりたい」
生産計画を緻密に調整して、収益性を上げながら、Co2を減らし……といった、さまざまな考慮すべき要素があり、その影響範囲も広いというような「とんでもなく難しい計画」の最適化をAIを使って行うALGO ARTISの永田 健太郎さんは3位入賞。DeNAのAI関連の新規事業部門からのスピンオフだ。
「いろんな事業を考えて結構死屍累々だったのですが、そのなかで見つけたのがこれで、パラメーターの多い大きな計画を作るのに人力でやっているというのに驚いたんです。絶対テクノロジーでなんとかなるし、とんでもなく世の中が変わりそうだと思いました。
バタフライエフェクトではないですが、1つのことがさまざまなところに影響する。それを人力でやるのにそもそも無理があるから事業化しようと、最適化ソリューションの「Optium」を作ろうと思ったんです。
一番最初の案件が、今公開している関西電力の発電所の運用です。人力でやっていることは、属人化する。人がやっている以上それがいい計画かどうかわからず、1人が出しているものがすべてになってしまう。その状況に対して課題を感じていたと聞きました。
最初にお話したときから実際に運用まで3年ほどかかりました。関西電力さんが僕らを信じてくださる以上はやめられないですし、結果を返したい気持ちでやってきました。
計画を作るときは、金額的なものや、リスクの大きい小さい、多様なパターンが存在します。会社もその事業のときどきでベストなやり方は変わってくる。任意のパターンもAB案も、瞬時に出すことができます。
ICCの参加は今回初めてで、どきどきしていたのですが、スタートアップ側も運営側もノリだけでなくちゃんと社会を変えるという雰囲気を感じて、ある種ほっとした、なじめる気がしました(笑)。スピンオフしてから、社外に事業を説明する機会を求められてきたのですが、今回のような大きな場があると、これまで以上に頑張れます。
明らかに世の中の大きな課題になっていることを、空想じゃなくて、ちゃんと社会実装する、DXという言葉だけじゃなくて、世の中を変えていく実行者になりたいです」
▶ALGO ARTISの「Optium」は、人間の能力を超えた複雑な運用計画を毎日最適化できる(ICC FUKUOKA 2023)
「日本の水産業を協調領域にして、世界で戦う」
責任ある投票を求められた審査員たちが優勝に選んだのは、既報の通りリージョナルフィッシュの梅川さんだった。
登壇者同士の雑談で、ムードメーカーとなり盛り上げていた梅川さんは、ピッチコンテスト連戦連勝する中で、ICCなら土がついても構わないと言っていた。なぜ水産業を選び、今の事業に至ったのかを登壇前に聞いた。日本が、世界がと大きな主語が当たり前のように何度も出てきた。
「前職がファンドで、日本が世界で戦えるような分野はどこなんだろうと、ずっと探していたんです。日本は技術で勝って経営で負けていると言われていたので、経営面でこの国を支えたいと考えていたんですが、名だたる日本の大企業のM&Aに関わった時に、もう技術ですら勝っていないと思ったんです。
この分野の技術ならまだ勝てるというところを見つけようと思ったときに、日本より魚が美味しい国はない。かつ、品種改良をゲノム編集によって超高速にできると知ったときに、これだったら世界と戦えるんじゃないかと、大学の先生たちと組みながら会社を作りました」
ブルーオーシャンであってもファンドから一次産業への転身。そこにためらいはなく、世界で戦えるチャンスに燃えた。
「日本が10年20年後、何で飯を食っていくか。日本の食は本当に美味しい。マーケットも世界で伸びる。ここは世界で戦える。それに一次産業って今はビジネスっぽくない感じがあるから、逆にチャンスがあり、そこで戦える。
実は昆虫食ベンチャーを最初に作って、資金調達もしたんですが、でももうちょっと時間がかかりそう、先に来るのは魚じゃないかと思ったんです。今のところは読みどおりです」
すでに販売が始まっている22世紀ふぐや22世紀鯛に続く、ゲノム編集によって生まれるより美味しい次の魚とは?
「いま、20品種同時にやっています。超高速で回したとしても、PDCA1回転には2〜3年かかります。魚の品種改良はモデル生物をメダカなど小さいもので、1回2カ月のものでガンガン回していきます。それから、養殖業に当てこんでいく。
次に出る魚を明確には言えませんが、皆さんが考えている魚のうち、マグロとうなぎ以外を大体やっていると思います」
誤解されることも多いそうだが、他生物の遺伝子を入れることもある遺伝子組み換えとは違い、その種が本来持っている遺伝子を使うゲノム編集は安全性が高いと言われている。従来ならば掛け合わせで根気強く改良を重ねていくところを、超早道で進められるのがこの技術だ。
「たとえばイノシシから豚ができている。毛や牙がなくなって大人しくなって、食べて体重がものすごく太るようになったわけです。それを昔は掛け合わせで行っていました。今はどの遺伝子が変化したかが分かれば、それに一発で辿りつけるのが、この技術のすごいところ。他の動物や植物で起こったことを魚でも再現できます。
とはいえ、想定外のこともあります。ふぐは歯を切らないと噛み合いを起こして死んでしまうので、ふぐから歯を無くしたいと思って作ったら、歯は無くならなくて骨が少なくなったというのがありました(笑)。
人間の病気で生まれながらに歯がないというのがあり、その遺伝子を狙って編集したのですが、魚の場合はその遺伝子ではなく、他の遺伝子も関係していたんです。
食の領域はすごくポテンシャルがあるけれど、多くの企業、我々が組んでいる通信やゼネコン、エネルギーを含む企業さんは、水産はノンコアなので協調領域にしやすい。日本市場は非常にシュリンクしているので協調領域にして、みんなでこの産業を変えていく、世界で戦える水産業にしていきたいなと思っています」
審査員感動「日本にこんなすごい起業家たちがいる」
こういったスケールの大きな、そしてペインの大きいことへの課題解決を語られて燃えない起業家がいるだろうか。プレゼンを聞き終えた審査員のほうが熱く、登壇者たちの顔は何度もほころんだ。代表的な熱いコメントを紹介する。
ユーグレナ永田 暁彦さん「ユーグレナとリアルテックファンドの永田です。皆さん本当に素晴らしいプレゼンテーションで、特に僕は前半、心が震えて過去最高だと思いながら見ていました。僕のリアルテック的なポジションで言うと、Solafune さんとかリージョナルフィッシュさんに当然投票させていただいたんですけど、ascendさんにも入れました。
僕はロジスティクスが国の血液だと信じていて、ここの改善は日本全体を元気にすると信じています。今スタートアップ育成5か年計画が発表されて、委員会などに参加しているのですが、日本のアントレプレナーが足りないとかベンチャーがいないとか言われて、毎回憤慨しているんですよ。
▶運送業の業務管理システム「ロジックス」で、物流業界のDXと最適化に挑む「ascend」(ICC FUKUOKA 2023)
ここに見に来てほしいと、このICCがよりそういう場に、日本にこういう人たちがいることを知らしめられる場になったらと熱い思いを前半持ってたんですけど、CBDで今はちょっと心が落ち着いてしまった(笑)」
▶「ワンインチ」はCBD市場の創出で、緊張やストレスに苦しむ人たちに新たな選択肢を提供する(ICC FUKUOKA 2023)
セプテーニ・ホールディングス佐藤 光紀さん「20年前はミュージシャンだった佐藤です。(workeasyの「corom」が)今あったら僕も1万円稼げてたんじゃないかなと、ちょっと昔に戻りたい気分でした(笑)。
僕も前半結構震えたなっていうのがあってですね、Solafuneさん、自分たちのミッションに対する確信、なんかもう信じ切ってるなっていうのがすごいよかったですね。ゲーミフィケーション的なコンテストを混ぜるのがすごくよくて。
皆さんそれぞれ事業が成功すると思うんですけど、より自分を信じ切ることが、結構大事なんじゃないかと改めて最近感じています。日々現実に向き合う中で、現実を変えきれないもどかしさに苦しくなることが起業家の方は多いと思いますが、長く続けるのには信じ切るしかない。
自分を自分で信じ切る力っていうのは結構大変なので、そういうのを持っている方はやっぱり、こういったカタパルトの場で世界に向けてどんどん飛び立っていくのでしょうし、そういう方をたくさんピッチの中で感じ取れたのが今日の収穫だったなと感じます」
インキュベイトファンド本間 真彦さん「僕もちょっとグッときたのはSolafuneさんですね。スケールの大きい、日本から世界に通用するような起業家及びそういうチームが大きいテーマにチャレンジするケースが本当に必要で、まず一合目にその大谷 翔平選手のようなガンとしたものが必要だと思います。それができそうなポテンシャルをすごく感じました。
リージョナルフィッシュさんも同様です。大きな流れの中でこういう問題っておかしいと、構造を捉える力っていうのは素晴らしいと思いましたし、グローバルに通用する日本の産業、水産業を復活させるっていうところにも繋がっていて、非常に心震えるものがありました」
千葉 功太郎さん「僕もリージョナルフィッシュと投資先なんですけどSolafune、やっぱりいいなと思いました。
ポイントが全世界の地球の課題を解決しようと真正面から取り組んでいること、この規模のアプローチを日本のスタートアップがある意味平然とやれる時代が来たんだなと思って感動しています。
あと多分リージョナルフィッシュが人気そうだなと思ったので、それを育てるためにMizLinxは必要、やっぱりオペレーションはすごく重要で、いいお魚を現場で育てるっていうのは大切だなと思います。プレゼン内の動画に結構感動しました。
やっぱり現場って絶対大変ですよね。一次産業って非常にDXしにくい分野だと思っているので、配送(ascend)もそうだと思うんですけど、本当に現場のオペレーションの改善は、何よりもやっぱり大切だと思っています」
起業家の人生がかかっている7分間
「私、TechCrunchをはじめあらゆるピッチ大会で優勝してきたんです。
▶リージョナルフィッシュ、TechCrunch Tokyo 2021スタートアップバトル優勝&22世紀鯛・22世紀ふぐのECサイトを通じた販売を開始(PR TIMES)
ここに出るときに今回の登壇メンバーなら、もう負けても言い訳つくなと、特にSolafuneさんに負けても言い訳つくなと思って緊張しながらやったんですけど、無事皆さんに認めていただいてすごく嬉しかったです」
優勝した梅川さんは本当に驚いたようで、コメントとしてそのくらいしか言えなかった。続いて豪華賞品の贈呈式に移り、総額数千万円と思われる10社からの優勝賞品と、鍋島虎仙窯の優勝記念盾を持った撮影が行われていった。登壇を終えたあとも、飄々としているように見えたが「すごく緊張した」と語っていた。
GrowthCampの山代 真啓さんは、カタパルトの登壇者たちがワークショップに参加したときから彼らのプレゼンをサポートしてきたため、今日の晴れ舞台を見て感無量の様子。会場出口に立って、登壇者一人ひとりに声をかけていた。
「今回『カタパルト必勝ワークショップ』で、リハーサルからご一緒していて、そのときは起業家の方、不安そうで自信のないプレゼンも多かったんですが、今日は皆さん自信たっぷりで自分たちが信じているミッション、世界を表現すべくプレゼンしてたのは本当に印象的で、本当に感動しました。
今回優勝したリージョナルフィッシュさんもそうですが、ワークショップに出ていたascendだったり、あとワンインチ、あと佐治さんのworkeasy、この辺り、皆さん入賞されましたが本当に練習のときから見ると、人が違うんじゃないかっていうぐらいのプレゼンをされました。
その背景には想像するだけでもちょっと涙が出てくるぐらいの努力があり、100回くらい練習してここに臨んでいると思います。その努力が感じられ、人生をかけたカタパルトという感じがありました。
workeasyの佐治さんも必勝カタパルトのときはちょっと『笑い狙いなんじゃないの?』みたいな話になってたと思うんですけども、しっかり笑いも前半でとって、後半からちょっと感動というか、想いも溢れるプレゼンで、入賞して本当に良かった。本人も多分すごく喜んでいると思います(笑)。
やっぱりカタパルトは起業家の人生がかかっているなと思います。皆さんが輝いていて、入賞したところもそうでないところも人生が変わるようなイベントになったんじゃないかなと思います。
佐治さん以外で印象に残ったのは、MagicPodの伊藤さんのプレゼンテーション。むちゃくちゃ気合い入っていた。エンジニア出身なのもあって割と淡々と喋る方なのですが、なんか見ているほうが緊張するぐらいの声が出ていた。
一発目ってむちゃくちゃ緊張すると思うんですが、トップバッターのトーンは、このカタパルトの鍵を握るもので、本当にいい緊張感の下でプレゼンしていたと思いました。
同じプレゼンを2週間前に聞いていて、こんな違うのか?っていうぐらい全然違ったじゃないですか。みんな7分間時間通りだし、想いも伝わってるし、わかりやすいし、スライドの完成度とシンクロ率もほとんど間違っていない。
このICCのカタパルトは日本で最高峰ってよく言われると思うんですけど、それにふさわしいイベントで、投資家の方とかも見ていて、本当に今後に大きく影響するようなイベントだと改めて思いました。 審査員という形でもすごく学びが大きいし、一緒にグロースさせたいなという気持ちになる企業も、起業家の方も毎回多いんです」
そう言うと、山代さんは可愛い”教え子”たちに再び、声をかけに戻っていった。
スタートアップに、再び熱い勢いが戻ってきた。国境が再び開かれた今、彼らが見ている世界は広く、遠慮するものは何もない。自分の見つけた課題を、信じる事業を、全身全霊で今、やらなくて誰がやってくれるというのか。それを当たり前のようにやりきろうとする起業家たちが、改めて眩しく、頼もしく見えた今回のスタートアップ・カタパルトであった。
(終)
▶ICCサミットや登壇企業の最新情報を随時お知らせ。公式Twitterをぜひご覧ください!
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成