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4. 日本や東アジアは、「不快な情報への耐性」が足りない

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ICC KYOTO 2024のセッション「デジタル民主主義を徹底議論!」全7回の④は、リディラバ 安部 敏樹さんが、集団的意思決定のアイデアを披露。安野 貴博さんはエコーチェンバーの中心にいたという東京都知事選挙を、永田 暁彦さんは移住先の町を例に当事者意識を語ります。高橋 大就さんは「ローカルは民主主義の学校」という言葉を紹介し、逆転構造にある民主主義を変えたいといいます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2025は、2025年9月1日〜 9月4日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションのオフィシャルサポーターはYappli UNITEです。


【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 5B
デジタル民主主義を徹底議論! ともに政治の仕組みを考えよう。
Supported by Yappli UNITE

(スピーカー)

安野 貴博
合同会社機械経営
代表

安部 敏樹
株式会社Ridilover 代表取締役 / 一般社団法人リディラバ 代表理事

高橋 大就
一般社団法人東の食の会 専務理事/ NoMAラボ 代表

永田 暁彦
UntroD Capital Japan株式会社代表取締役/リアルテックファンド代表

村上 臣

(モデレーター)

琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

「デジタル民主主義を徹底議論! ともに政治の仕組みを考えよう。」の配信済み記事一覧


琴坂 会場から質問が来ていまして、取り上げてみます。

「利害がコンフリクトする中での集団的意思決定がデジタルでよりよくできる、と言えるまでには、直接参加・情報の民主化・スピードアップだけでは足りないような感覚があります、とはいえ何が不足しているのか分からず…」というご質問です。

何があればできるか、思いつく方はいらっしゃいますか?

様々な課題を全権委任する弊害を解決できる

安部 この質問はすごくクリティカルなところに来ています。

琴坂 そうですね。

安部 先ほど大脳系、大脳皮質系、その他本能的に対応するみたいな話を村上さんがしていましたが(前Part参照)、これはまさに最初のガバナンスの話で出ていたような、執行と経営を分けましょうということと非常に近い話だと思います(Part.1参照)。

実際今の行政システムのほとんどは、役所に行って何かを決めたり、みんなの意思決定を間に入れたりせずにやっているわけですよね。

新しい問題が出てきて役所で対応しているのですが、その役所のプロセスにおいては、実は皆さんの民意が反映されることは難しいです。

反映されるとしたら、メディアで取り上げられて炎上してしまった時くらいです。

その意味で、実は執行レベルにおいては、これからDXが進んでいく中で、もしかしたらこれまでみんなの承認を得ていなかった、民主主義だと言っているけれど実は勝手にやっていた部分に対して、これまで以上に集団的意思決定が反映できる領域が増えてくる可能性が出てきます。

そのときに、そこまで広げていいのか? 広げるとより利害がコンフリクトするけれど、というところがまず一点出てくるでしょう。

これが出てきたときに、では何があると一番良いかというと、その解決策としては間接的な民主主義なのだけれども、それがカテゴリ別に投票できるという方法です。

つまり投票する時に、経済政策は村上さん、デジタル化は安野さんにお願いしたいみたいな感じで、あるカテゴリに入った問題に関してはこの人にしたいと投票する方法ですが、これは別に今でもできることです。

ところが、今なぜか僕らはその1票を全権委任して、政治から経済から福祉から何からすべて、この人に全権委任ですとなってしまっています。

これでは利害がコンフリクトしたときに、全権委任した人のいろいろな事情で都合の良い方向に行ってしまうので、なるべくその透明性を上げていく意味でも、テーマ別に委任者を分けていくことができるというのは、そのソリューションだと思います。

日本がデジタル民主主義を導入しやすい理由

琴坂 今の話は相当高いレベルの知性を前提にしている気がしますが、有権者すべての方々にそこまでの判断能力、時間的コミットメントを求めていいのかについてはいかがでしょうか?

安部 先ほど、なぜアジアのほうが先んじるのかみたいな話が出ましたが(前Part参照)、アジアの特徴は儒教や宗教的な文化で、その規範を前提として共有している領域が割合として多いことなんじゃないかと思っていて。それがマスメディアのあり方にも反映されているではないかと。

メディアにはどういう機能があるかというと、日本では分かりやすいのですが、新聞でもテレビでも、みんなが同じ基本情報に触れています。

過去の歴史で見ても、例えばある事件が起きた時に、産経新聞だけが報じて読売新聞は報じないということはあまりなくて、朝日新聞も産経新聞も事実のレベルではみんな同じことをある程度報じていて、論説でちょっと違った意見が出ていたぐらいですよね。

ところがアメリカではケーブルテレビが発展していることもあって、人によって見ているチャンネルが全く違います。

トランプ候補に都合の悪いことはFOXではやりませんみたいな話も含めて、チャンネルによって共有する認識や事実が違います。

日本はむしろ事実や宗教的な規範に関してはかなりみんなで同じものを共有していて、最後の「夫婦別姓はどっちにしようかな」というような部分だけ意思決定できます。

共通領域が大きいゆえに、デジタルの意思決定のところを入れやすいという話だと思います。

そうすると、むしろこの共通規範や共通の情報を共有できるインフラを、いかにこの国が維持ないしより強めていけるのかというところのほうが、デジタル民主主義の導入が可能かどうかというところに強く影響を及ぼしてくると思っています。

国民のリテラシーの問題というのは、実は規範や宗教的なもの、儀式的なもの、それからメディアの普遍性などに依拠するのではないかというのが私の考えです。

エコーチェンバーの中心にいて考えたこと

安野 それでいうと、今後どれだけ事実認識を共有し続けられるのか、みんなが同じものを見続けられるのかという点については、結構あやしいなと思っています。

特に新聞をみんながどんどん読まなくなり、SNSに投じる時間が長くなっている中で、都知事選でも実感しましたが、みんなのタイムラインが違うのですよね。

自分のタイムラインでは○○支持者がたくさんいる、みたいなエコーチェンバー(閉鎖的な情報空間で、特定の近しい思想や嗜好のユーザーが集まること)があります。

私はエコーチェンバーの台風の目の中にいたので、タイムラインの99%が……。

(会場笑)

安部 実際どうでしたか? 終盤は立っていたら自分の支持者が集まって大変盛り上がっている状況で、もしかしたら当選できるかもしれないと思うぐらいの勘違いとかは…?

安野 (笑)そこまではいかないけれども、選挙期間中24時間ずっと、目の前に物理的にいる人たちも自分の支持者だけだし、スマートフォンでXを開くと全員、安野支持みたいになっているので。

安部 ちょっと勘違いしちゃいますよね。当選できるのではないかと。

安野 勘違いはしないですけれど(笑)、でもそういうことになっている現状で、メディア環境は今後もどんどん変わっていくので、どこまでみんなが同じものを見続けられるのかという問いは、あるなと思いました。

デジタル民主主義に必要な「不快な情報への耐性」

安野 あとは逆にアメリカやEUに足りていて、日本や東アジアに足りていないところもあると感じます。先ほどの質問に「足りない部分は?」とありましたが、自分たちが不快になることに対する耐性のなさというのはあると感じます。

デジタル民主主義はすべてを透明にしていくので、必然的に、調べようと思えば自分が不快になる情報がよりたくさん出てくるようになると思います。

琴坂 議論が苦手ということはありますよね。

安野 そういうことを許容していかないと、かなり難しいです。

ある省の官僚の内部的な勉強会に出た際に感じたのですが、皆さん自分たちのやっていることをオープンにすることで、何の仕事も進められなくなるという感覚を持っているんですよね。

なので、オープンにしたがらないのです、スピードのためだと。

隠したいというよりは、オープンになるだけでガンガン質問が来てしまうから、それに対応するコストがもったいないのだということを言っていました。

その状況は解決しないとうまくいかないのではないかと思っていますね。

琴坂 悪循環ですよね。

今の状況だと一定のある人たちだけがガーッと言ってくるインフレが起きてしまう。開示しても建設的な議論が起きない、起きないから開示しないという輪でグルグルと回っていて。

安野 まさにその悪いほうのサイクルに入っていると思います。

琴坂 そうですよね。

さあ、ここで渋い顔をしている永田さんに(笑)。

(会場笑)

永田 渋い顔?! そんなつもりは全くないです(笑)。

琴坂 (笑)どうぞ。

強いガバナンスと強いリーダーシップの共存を目指す

永田 いや、難しいなと思いながら聞いていました。

村上 熟考していたわけですね(笑)。

永田 先ほど浪江町のお話がありましたが、僕は今、8,500人の町に住んでいます。

僕は地方自治の観点に下りてきた時に、現実性のあることとは何なのだろうと、ずっと考えているのですよね。

僕は明確な専制主義と民主主義の中間とは何だろうと考えて、強いガバナンスと強いリーダーシップの共存を目指したいのです。

直接民主主義のようにいろいろなことを自分たちが細かく決めていくことよりも、信じられるリーダーに高いガバナンス環境の中で伸び伸びやってもらうことが、現実ラインで一番良いのではないかと思っています。

琴坂 経営者としてのご自身と変わらないですね。

永田 そうです。自分自身もそうです。

まさに琴坂さんとユーグレナで一緒にやっている時に(※琴坂さんはユーグレナの社外取締役)、僕は一番最初にガバナンス強化を決めました。

なぜガバナンス強化をするかというと、自分の行動自体を証明できるからです。

その状況下においては強いリーダーシップを発揮しやすいというのが、僕は経営の中における根本にあると信じています。

それがまず1つ目です。

もう一つは、「執行機能の最大化」です。

僕は今自分の住んでいる町を愛していて、何が一番好きかというと、公務員が本当にキラキラしていることです。

この視点を絶対忘れてはいけないと思っているのです。

なぜなら、1,000人の会社だったら、1人の社長は999人の社員がいかに素晴らしく活動できる環境になるか、執行しようとします。

僕の住んでいる町では、その執行に町民が異常に関与しているのです。

そこに、この町の素晴らしさを感じています。

ここにデジタル民主主義の未来の可能性があると僕は信じているので、僕の考えは超シンプルです。

強いガバナンスの中に強いリーダーシップのある首長が存在することと、執行する人々が本当に町が愛せる状態で生き生きしていること、それでいて町民たちは、サービスを受容する側だという感覚ではなくて、自分たちの町を一緒に良くするものであるという感覚を当然持ってこの町に生きること、それを実現できる方法がデジタル民主主義だと思って、このセッションに参加しています。

琴坂 なるほど。安部さんの話と絡めるといいなと思いましたが、永田さんのお話は強いリーダーがいてガバナンスがある、安部さんはもっと分権化して執行まで委ねるという話をしていました。

これを受けて安部さん、ここに書かれたこと(「広義の政策における責任者・論点・選択肢の微分化と個人へのフィードバックシステムの再発明」)を含めながらお話ししていただけますか?

安部 強いリーダーの話は、ジャンルごとに強いリーダーがいても問題がないと思うので、その部分でいうと両立する話かなと思います。

永田 僕は両立しないと思っているので、後でその話を。

安部 分かりました。

あとは、現状として、地方自治と国はかなり仕組みが違います。

地方自治の仕事、特に基礎自治体の仕事が何かというと住民サービスで、直接的な住民の課題解決をするのが「基礎自治体」の役割で、その基礎自治体を後方支援する役割が「広域自治体」で都道府県です。

さらにそういったものを取りまとめて、全体のサポートを地方分権の中でしていくのが「国」、という仕組みに今大きな流れとしてなっているので、その意味でいうと、どういうことを目的とした組織体なのかによって、かなり仕組みが変わってくると思われます。

国のような仕組みは、結局かなり大きなものを取りまとめて、その取りまとめたものの中で皆さんの納得感を得て、ガバナンスを効かせるためにはどうするか、考える必要があります。

でも1億2,000万人が住んでいるので、相当多様なイシューが上がってきて、多様なテーマが存在するため、納得感のためにもガバナンスの部分は相当難易度が高いです。

ここの部分とオペレーションを実行しているところのパフォーマンスですべてが評価される部署は、ガバナンス意識がかなり変わって来るかなというイメージですね。

琴坂 なるほど。永田さん、反論は。

永田 強いリーダーにおいて一番重要なことは、チームアップの選任権ですよね。

今のお話では、会社でいうと、CHROとCTOは自分が選べずに、別々の人が選ぶということですよね?

安部 いや、そういうわけではないですよ。

永田 そういうわけではないですか? でも、そのように聞こえたのですが。

安部 もう一度お願いします、会社でいうと?

永田 テクノロジー領域に関して誰がやるかも、HRに関して誰がやるかも株主が選ぶということですよね。

安部 はい。もう少しいうと、例えば、議会があります、と。

バーチャルな議会が存在していて、バーチャルな議会で例えば、デジタル関連法案みたいなものがあって、その法案が通る時に国会議員が300〜400人で投票していきます、と。

その時に、例えば、デジタル分野の法案を通す時の300〜400人の顔ぶれと、経済分野の法案を通す時の300〜400人の顔ぶれは異なる状態ですという話をしていました。

永田 そういう意味なんですね。

安部 間接の代議士のところなので、このテーマの代議士はこんなふうに選出しますよという話ですね。

永田 ある種のポピュリズムに走る時、全体をまとめる人は結局誰になるのですか?

安部 全体をまとめるというのは、具体的に何をする人ですか?

永田 社会福祉は強いほうがいいよねというふうに当たり前になってくるとした時に、分かりやすく言うと、財源の配分バランスをコントロールする中心部分があるからこそ機能するという、機能があるわけじゃないですか。

安部 予算の配分を誰にどうアロケーションするかということですか?

永田 例えば、お金だけで決めるのなら予算ですが、全体の方針の中において、それぞれの方針自体が違う方向を向く可能性をどうとらえればいいかということなのですが。

安部 それは今も各省庁があって、各省庁に大臣がいます。

大臣をとりまとめる総理大臣は、また別の角度から議会から選出されてきていて、総理大臣が各大臣を選んでいます、と。

大臣は行政であり議会は別、行政と議会は別のロジックで選ばれてくるので、そこは今の仕組みと何も変わらないかなと思います。

琴坂 なるほど。高橋さん、何かありますか?

逆転構造を変えない限り、日本は変わらない

高橋 お二人の言ったことですごく大事だなと思ったのは、基礎自治体、ローカルということですよね。

昔からローカルは民主主義の学校であるといわれていて(※)、ここで実践をいかにできるかが本当に鍵だと思っています。

▶編集注:英国の法学者・政治家のジェームズ・ブライス(1838〜1922)による。著書『近代民主政治』で「地方自治は民主政治の最良の学校、その成功の最良の保証人なり」(松山 武訳)と表現された。

先ほどの、何か足りないという問いに絡めていうと、もう1つ基本的に重要だと思うのは「自由」です。

まず我々のコミュニティがあって、基礎自治体があって、都道府県があって、国があるという、これを我々が自由意思を持って付託しているという本来の構造ですよね。

そのはずなのに、我々の頭の中では、この国はすべてが許可制なのです。

大前提として国なり行政なりが、我々に何かを許可します。

公民館を使うのも全部許可制で、我々に自由が所与としてはなくて、行政から自由を与えられるというのは本来逆なのですよ。

本来、行政権なり立法権なりに我々が限定したものを我々の意思で与えているので基本自由で、彼らの権限が限定されているはずなのに逆転してしまっています。

これが変わらない限り、デジタルを入れようが何しようが、この国は本当にある意味、専制国家に近いような状況のままいってしまって、人口も減って、というふうになってしまいます。

この逆転構造をローカルで変えて実践できるかということが、今勝負かなと思っています。

琴坂 ありがとうございます。

(続)

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式Xをぜひご覧ください!
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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