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社会を変えるために、経営者たれ。ソーシャル・アントレプレナーが背負う新たな覚悟

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2月13日~16日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、最終日に開催されたHelloWorldの冨田 啓輔さんが優勝を飾ったソーシャルグッド・カタパルトをレポートします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください


矛盾する道を通すことが経営者の仕事

HelloWorldの冨田 啓輔さんの優勝スピーチの様子

「ともに学び、ともに産業を創る。」と銘打つICCサミットのなかで、ソーシャルグッド・カタパルトは異色の存在感を放っているが、いまや最終日の目玉カタパルトとなっている。

イノベーションが生まれ、新しい価値観が生まれ、既存の産業においてもアップデートが進み、さまざまに散らばっていた労力が効率化され、新たな奔流ができる。そんな勢いがある中で、ずっと社会にあった”凹”の部分に立ち止まり、目を向けずにはいられない人たちが、ソーシャルグッド・カタパルトには集まっている。

その”凹”は、社会の繁栄の陰で犠牲や見過ごされてきた部分で、目を向けずとも生きていくことができるもの。それを何とかしようとする彼らの事業はほとんどの場合、家業でも何でもない。それでも人間や社会に対して「知ったからには、放っておけない」という気持ちが、彼らを動かす原動力である。

たとえ自分1人でも、さまざまな”負”に向き合い、その解消のために先の長い戦いをしている。最近でこそ経済合理性が言われているが、ソーシャルグッドは大きな献身や犠牲を当然のように強いる風潮があり、稼ぐことは悪いことのように見られる。すぐに解決できる”負”でもないのにである。

このカタパルト冒頭で、特別ゲストのユーグレナ出雲充さんはいつもトップギアでスピーチを始める。今回出雲さんは、稲盛和夫さんによってJALが2年間で再生した例に触れた。

「NPOやNGOの方が来ていると知っていて、あえて申し上げます。矛盾してる問題や制約条件を苦労して乗り越えるのが会社というものですが、JALは民間企業で、安全第一を守っていいことをやっていたのに、約9,500億円の債務超過で一度破綻しました。

いいことをやっているだけではダメなんですよ。稼がないと! そうしないと続けられません。どうしたら矛盾する道を通すことができるか? それを考えて実行するのが経営者、リーダーの仕事です。

次のソーシャルグッド・カタパルトで皆さんのような参加者が減ったら、日本は良くなりません。皆さんには何があっても生き残って、1人でも多くの人がこのソーシャルグッド・カタパルトに帰って来てもらわないといけません」

社会の凹に向き合い、人知れず犠牲を重ねてきた人たちーーそんな立場の彼らに、その親分である出雲さんは、社会を良くするためには強い経営者の自覚が必要だと呼びかけた。

今は少数派の自分たちは逆風の中を支え合って頑張ろうと、毎回熱いエールを送り続けている出雲さんがこの話をしたことは、ソーシャルグッド・カタパルトが次の段階へ進む予感を感じさせた。毎回高い人気を集めるこのカタパルトが、経営者の想い、感動や共感だけでは成り立たないと、聴衆にも釘を刺すようであった。

出雲さんはいつでも想いで周囲を巻き込む経営者である。しかし今回登壇したセッション「ビジョン/パーパスについて語り合う」を後日見ると、しかしそのセッションの最後に、安定した社会やコミュニティを作る経営者に感謝する場面があり、それがまたこの発言につながっているように思えた。

そう、親分の出雲さんもまた理念と経営の矛盾する道を通そうとする、このコミュニティのリアルタイムの同志なのである。

ソーシャルグッド・ビジネスでIPOを目指す

登壇者側にも出雲さんのメッセージに相応するような変化が見られた。今回印象に残ったのは、登壇者たちの力強さと、頼もしさだった。経営もしっかりやろうとする、ソーシャル・アントレプレナーが増えている。

たとえば優勝したHelloWorldの冨田 啓輔さん。登壇前は客席に座り、プレゼンの練習に没頭していた。プレゼンでも語っていたが、敗訴率0.7%、高収入の弁護士を辞め、子どものための教育事業を立ち上げているが、そこまでの人がなぜ?と聴衆の興味を一身に引き付けた。

登壇を前に練習をする冨田さん

すべての子どもに届く英語教育で、多様性のある社会の実現を目指す「HelloWorld」(ICC FUKUOKA 2023)

平等な教育を届けることは、教育事業なら誰でも目指すところであろうが、格差が開いていく社会でそれが容易でないのは火を見るよりも明らか。しかし冨田さんたちなら、その無理筋を可能にしてくれるかもしれない、何か策がありそうだという期待を感じさせるプレゼンだった。

「チーム約20名で一眼となって創業2年が経ち、やっとビジネスとソーシャルインパクトを両立させられるきざしが見えてきたところです。

このプレゼンを見てくれている子どもたちがどこかにいる、そんな子どもたちに僕たちが影響を与えられるということを謙虚に受け止めながら、チーム一丸となって、支えてくださる皆さん、ホストファミリー、いろんな方がいらっしゃるなかで諦めずに、自分の全身全力を捧げて頑張っていきたいです」

優勝コメントを涙ぐみながら語った冨田さんだったが、登壇後のnoteでは、そのとき同時に感じていたという大きな「覚悟と責任」を綴っていた。

弁護士業を辞めてICCカタパルトで優勝した話(note)

「ビジネスとしてうまくいかないことの言い訳に、『ソーシャルグッド』を使いたくない。」

「社会的にいいことをやっていることを、営業利益を出せない/売上が増えない言い訳に使いたくない。」、そして「IPOを目指す」と、noteでは宣言している。

カタパルト終了後やラウンドテーブルで、優勝を祝う審査員や観客たちと和やかに談笑している様子は、かねてからの仲間同士のように見えた。とくに審査員との垣根が低いカタパルトではあるが、新しい環境でもすぐに存在感を発揮する冨田さんのキャラクターもまた、経営者としての信頼を勝ち得ているようであった。

企業の障がい者雇用を変える仕組みを作る

登壇リハーサル中の福寿さん

2位に入賞したローランズの福寿 満希さんは、すごい事業計画を、事もなげに柔らかな笑顔で語る。学生時代に特別支援学校で教育実習をしたことから、障がいや難病の子どもたちの働く夢を叶えたいと会社を作り、彼らとともに花屋の事業を成長させてきた。

「自分たちで雇用を増やしてきましたが限界はあるので、たくさんの企業を巻き込んでいく必要があるなと思って」

就労意欲にあふれた応募が集まって雇いきれないと福寿さんが嘆く一方、1976年に法的に義務化され、従業員が43.5名以上の企業には1人以上の障がい者雇用が必須となっている現在、最新の令和4年の統計では未だ半数に満たない。

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「企業ごとに雇用は分断されているけれど、もっと企業が一緒になったり、障害福祉団体と一緒になったり、まとめてやる新しい仕組みが広がって、雇用促進に繋がればいいなと」

少しずつしか動かない状況を、現状とすり合わせて解決しようとする泥臭い仕事だ。プレゼンする人によっては、業を煮やして当事者側が出てくる力技にしか聞こえないかもしれない。そう思わせずに、すんなり腹落ちさせるのが福寿さんの凄さで、入賞した理由である。

23歳で起業して65名までの規模に育て、社会の障がい者雇用の仕組みを変えようとしている経営者というとパワフルなイメージを想像すると思うが、ただあるべき道を常に選択し、淡々と歩んでいるようにすら見える。しかし、軽やかに伝える言葉に実行力が伴っていることを、実績が示している。

子どものキャリア教育無料に、toBで挑む

5位に入賞したCHEERS白井 智子さんも、優勝したHelloWorldの冨田さん同様、教育事業を手掛ける。働くことや人生を楽しむ大人(企業)と子どもをつなげるキャリア教育で、子どもが将来への選択肢を増やし夢を描くことを応援する。特徴的なのはそのコストを子どもの親からではなく、メンター側の企業が負担することである。

「年に5回くらい間違えられます」という、同姓同名の新公益連盟の白井智子さん(写真左)と

「今日のプレゼンでは、なぜtoBをしているのかが伝わればいいかなと思っています。

toCで10年間、約1万5,000人の子どもたちに向けてやってきたのですが、もう1回教育にアクセルを踏もうと思ったときに、お金を出せる親御さんは限られる。それでももっと届けたいという思いがあって、理想的には子どもの教育費が無料だったらいいのですが、誰もそこに挑んでいないと思いました。

大企業には何万人とか何百万人の社員さんがいて、その先に子どもたちがいると思えば、やり方はある、できないことはないなと思ったんです。それに親御さんから集めることに、私はもうアクセルを踏めなくなってしまった。

何かを教育したいというよりも、諦めない心をもって、本当にやりたいことに向かって、子どもたちがこのまま成長していくためには、大人が応援するしかないなと思っています。今日は、聞いてくださった方が誰かの”チアーズ”(応援)になってくれたらと思っています」

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企業側が、自分たちの仕事を子どもたちに説明したり、職場を社会科見学的に案内や紹介したりして、「社員研修費や広告費」としてその費用を負担するのがCHEERSの仕組みだ。教育は受ける側が授業料を払うことが常識のなかで、白井さんの語るtoBビジネスモデルは一見わかりにくい。

しかし想像してみてほしい。何のバイアスのない子どもたちを前に、自分の仕事はどんな意味があり何が楽しいのか語ろうとすると、シンプルな言語化が必要で、むしろ大人向けの紹介より難易度が高い。働く意義を見つめ直す機会になり、組織へのロイヤリティも増すのではないだろうか。

企業にとってはブランディングにもなる一方、子どもたちには平等な学びの機会となり、双方にとってプライスレスの経験になる。そこにコストの価値があると発見した白井さんの目の付け所は鋭い。スポンサードしている大企業が感じている効果は、おそらくCSR的な側面だけではないだろう。

ともに生きる人たちに、農家の魅力や可能性を伝えたい

入賞者に限らず、どの登壇者も強い信念を感じさせる人たちばかり。ここからは登壇前に聞いた、印象的だった話をいくつか紹介しよう。

富山の里山でいのちが循環する農業を営む土遊野 河上 めぐみさんは「以前の自分は、こういう機会で気後れして遠慮したり、自分と比較してしまいがちだったのですが、今は自分が大事にする仕事を続けていくために、それをしっかりできている方の言葉や、やり方を聞くことがとても必要」と話す。

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「視野が広がり、食べ物、農業の生産者にこういう機会をいただけるのはすごく大事なことだと知りました。すごくありがたいなと思います。

異業種の企業ばかりですが、私も毎日ITを使っていますし、皆さんも毎日農家が作ったものを食べていますよね。一緒に生きている。日々使っているものや技術、次のものを作っている方々がこの場にいるので、感動します。そういう方々と一緒にソーシャルグッドに入れていただいていることに私は感動しています。

ソーシャルグッドの観点で見ると、食糧生産などの課題の話になりがちですが、私は課題は持っていなくて、会社を大きくするより、農業を担う人がもっと増えてくれたらいいなと思っています。農家は魅力や可能性があると思ってやっていて、それを伝えたいし、たくさんの人に現場に来てもらい、体感してもらいたいです」

10万人が挑戦中、都会で生ゴミを減らす循環

ローカルフードサイクリングの平 由以子さんは信念の人。自身の父親の弱った体を蘇らせた栄養豊富な作物を育てる土作りが現代人には必要だと考え、”半径2kmの栄養循環プロジェクト”、生ゴミをコンポストで肥料にする事業を続けて30年近くになるという。

最初は都市型と限定せず、小さいモデルでスタートしたが1,000万円の赤字を出したり、助成金を得ても軌道に乗らなかった。都市型という切り口を考えボーダレスグループに入り、ベランダに封をして置いておけるトートバック型で商品開発をしたところブレイク。3年間で4万5世帯約10万人までユーザーは増え、その約90%が初心者だそうだ。

「社員ゼロで始めたんですが、SNSで出したらあっという間に拡散されて、アクセスが集中して受付を一時凍結するほどでした。たった3カ月で黒字化したんです。

事業を始めた当時は温暖化も、リアルで課題ではありませんでした。でもこの数年は自分の実感値として感じていて、何かしなきゃと思っている人はいっぱいいる。コンポストはいいと思っていたけどハードルを感じている人、ごみを捨てることに罪悪感を感じている人たちが増えてきたんです」

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都会のベランダで肥料を作っている人が10万人もいる未来を、誰が想像しただろうか? ごみの循環だけでなく、プレゼンでは他の事業者とともに都市の緑化まで構想が語られた。そんな平さんにコンポストの魅力を聞いたときに、緊張していた顔が和らぎ、心から楽しそうな表情になったのが印象的だった。

「寝ている間も、遊びに行ってる間も誰のためでもなく微生物が働いていて、食べ残しを分解してくれている。そうして次の資源に生まれ変わらせてくれることを知ったときに、すごく感動したし、楽しい循環を都会のベランダで、自然を感じながらゴミが減量できるという仕組みを考えたときにワクワクしました」

運営スタッフ出身として、ロールモデルに

yuniの内橋 堅志さんとともに、スタートアップ・カタパルトからソーシャルに舞台を変えて登壇するサグリの坪井 俊輔さんは、前日まで参加していたアワードでの手応えを胸に、内橋さんに破れて2位となった雪辱を狙う。いつも緊張感が漲っている印象だが、この日は意外なほどリラックスした表情だ。

「ユーグレナの出雲さんの言葉で、1位にこだわるのが大事だ、2位とは大きく違うというのがあって、昨日発表されたアワードで、審査員賞とグローバル賞、オーディエンス賞をいただいたときは、可能性があるかなと思ったけど、優勝は残念ながら届かずでした。

でも、展示を見に来てくれた方に農家さんがいらっしゃって、すごい!って言ってもらったのがすごく嬉しくて。土壌が大事だってことは当然理解されていていて、これまでは分析するために採取して試薬を使わなくてはなかったけれど、それが衛星データでわかる驚きをすぐ理解してくださった。

これすごい!と言ってもらえて嬉しかったですし、やってきて本当によかったなと思えた瞬間でした。いろんな農家さんに届いて、僕が知らないような現場でも使われるようになってほしいし、それが本望です。でも今はそういった些細なありがとうとか、いいねが力になっています。

プレゼンは(ICC代表の)小林さんが準備が全てとおっしゃっているように、自分でできる限りの準備をして、それをぶつけて、勝てたらもちろん嬉しいですし、勝ちたいですけど、毎回の登壇に悔いはないです。

私の原点は途上国の農業にありますから、今日は現場を1人でも多くの方に目を向けてもらえるようにプレゼンできたらと思いますね。

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私はICCの運営スタッフ上がりということもあって、1つのロールモデルになりたいと最近考えるようになりました。Co-Creation Nightとかでスタッフの皆さんと会うときに、元スタッフだったんですと伝えると皆さんも驚かれたりします。いい結果にこだわるのは、そんな使命感もあるんです」

妊産婦の孤立という課題に気づいてほしい

Kids Publicの橋本 直也さんは現役の小児科専門医。プレゼンからもわかるように、今の社会にとって喫緊の課題である「妊娠出産子育ての孤立」を訴えた。当事者が抱える不安、疑問、孤独やストレスは想像以上に大きく、橋本さんは「社会でちゃんと気づいてほしい、声をかけてあげてほしい」と言う。

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「一番の原体験はこども病院で働いていたとき、虐待の外来を見ると病院で待ってるだけだと守れない現状があると感じたこと。子どもに対する虐待も過去10年で3倍に増えていて、無視できない大きな課題です。

風邪をひかない子どもはいないし、皮膚のトラブルを起こす子も多いので、まずは子どもの健康についてよくあることから相談してもらって、かつサービスの中でそれだけではなくて育児の不安なども相談できることを伝えています。何回か会っているうちに話してくれるようになったりします。

今は合わせて 190名、そこに課題を感じて賛同される方々が集まって参加しています」

医師たちは風邪をひいた子どもの表情、身なりを観察し、妊産婦の心の状態にも気を配って診察しているが、それだけでは足りないと感じている。激務と言われる医療従事者が、何とかしたいという使命感で立ち上げたスマホで24時間専門家に相談できるサービスは、現場の危機感の表れでもある。

「今日のプレゼンでは、社会一般的に、想像以上に妊娠出産子育てが、孤立して過ごしている方が多いことをまず知っていただきたい。そこからまわりにいる人たちを自分なりに支えてみようと思う、そういった気づきになるといいなと思っています」

登壇者すべてにお話を伺うことはかなわなかったが、全11組、7分間のプレゼンは、自分はどんな人間でどんな経験があり今に至っているか、自分は何に課題を感じ、どんな社会に変わっていくべきだと考えているのかを語るソーシャルグッドは、特に、彼・彼女らの人生、価値観が浮き彫りになる。

ぜひ上の中継動画からご覧いただき、共感したものがあればぜひ応援いただきたい。未来は、より自分の選択次第になる。ミレニアル世代が社会の過半数になる2025年以降は、古い価値観が去り、その共感や応援がよりダイレクトに反映される世の中になっていくと出雲さんはいつも語っている。

4. ミレニアル世代がマジョリティになる2025年、ソーシャルセクターへの風向きが変わる!

前回優勝者、小高ワーカーズベース和田さんの進捗

11人のプレゼンが終了すると、原発事故で無人になった町で、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」をミッションに活動している前回の優勝者、小高ワーカーズベースの和田 智行さんが、この半年間の進捗を伝えた。

宿泊できるコワーキングスペース小高パイオニアヴィレッジは、行政と組んで起業家の呼び込みや誘致を行っていること、創出事業はまもなく24になること、その中でICCでの出会いがきっかけで生まれた事業もあること。

今回、スタートアップとリアルテックの両方のカタパルトに登壇したMizlinx野城さんは、小高ワーカーズベースの創業支援プログラムで1年間伴走していたという。町おこしならぬ街づくりをゼロから始めながら、起業家を育てるという計画を、和田さんは経営者として着実に進めている。

「小高パイオニアヴィレッジ」「haccoba -Craft Sake Brewery-」を訪ねる福島・小高ツアーへ出発!

これを遡ること3カ月前に、ICC一行は小高ワーカーズベースを訪ねている。いまだ人口の少ない、更地が目立つその土地で7年、本当にゼロからのその道程が開拓精神のワクワクだけだったとは到底思えず、今でも苦労は尽きないはずだ。

しかし優勝後からだけでも、本当にさまざまな事業や新しい取り組みが生まれている。信念を持ってやり続けることで、未開の地の果実を得ようとしている力強い経営者の1人である。

ソーシャル・アントレプレナーに求められるもの

【速報】まちなか留学で子どもたちの世界を広げる「HelloWorld」がソーシャルグッド・カタパルト優勝!(ICC FUKUOKA 2023)

多少の機材トラブルがありながら、ソーシャルグッド・カタパルトが、登壇者同士お互いの健闘を称え合う温かい雰囲気で終わったのは、スタッフをねぎらう出雲さんのコメントと、また開始前からカタパルトのコミュニティ作りに尽力してくれた人たちがいたからである。

入賞を称え合うローランズの福寿さんとCHEERS白井さん

カタパルトやアワード登壇者は、ICCサミットのメインプログラムが始まる前夜祭から顔を合わせているが、それよりも前に、初参加の緊張を和らげようとコミュニケーションをしていてくださった1人が、インターナショナルシューズの上田 誠一郎さんだ。

ジャンルを越えた交流! カタパルトとアワード、11のプログラム参加者が集結した前夜祭

「阪急メンズ館でイベントをしたときにe-Educationの三輪 開人さんが来てくださって、クラフテッド・カタパルトとソーシャルグッド・カタパルトは親和性が高いので、何かできないかなという話になって、オンラインで親交会みたいなものを事前にやろうとなったんです。

皆さんはほとんど初参加で、ICCに来ても知っている人がそんなに多くないというのが、この2つのカタパルトの特徴です。

事前にオンラインでお会いしてすごくいいなと思ったのは、実際にこの場で名刺を渡して初めましてではなくて、先日はありがとうございましたで始まったこと。緊張がだいぶ減ったとおっしゃっていただいたこと。自分の経験値を伝えられるのもよかったです。このカタパルトだけではなくICC全体に活きそうだな、素敵だなと思いました。

2人から感謝を伝えられる上田さん(写真右)

私がクラフテッド・カタパルトでICCサミットに初参加したときは、コロナの真っ最中で2020年の9月。そこからいろんな言葉の定義が変わってきているなと感じています。

そのころは匠の技、職人の腕一本といったものづくりの世界観が強調されることが多かったですが、今はどちらかというと、自分たちが作ったものを通じて、お客様や企業、地域、社会や未来をどうクラフトしていくかというように、”クラフテッド”の定義がすごく大きくなっていると思います。

登壇されたサグリの坪井さんとオンラインでお話して、仲良くさせていただいているのですが、彼も今回はたまたまソーシャルで、前回はスタートアップ。でもリアルテックにも出られるじゃないですか。

根幹はスタートアップの方も含め、みなさん一緒なんだなと感じます。いい意味で垣根がなくなってきている。この2〜3年継続的に参加させていただくなかで、全体としてそう感じています」

本当にわずかの間で、言葉の意味も、物事の定義もあっという間に変わっていく。ソーシャル・アントレプレナーの取り組む課題は昔からずっとあるものだとしても、出雲さんが言うように、その他の企業と同じ市場で経営者としてサバイバルを生き抜かないと、いくらいいことをしていても課題の存在さえ知られず終わってしまう。

その点で、今回入賞した方々を筆頭に、経営感覚を磨き、このカタパルトのような場で貪欲に自分の事業を伝えようとする登壇者たちは、2025年を待てないほどの事業を推進する信念とパワーを感じさせた。いずれも待ったなしの課題という点を差し引いて、である。

ソーシャルグッドは犠牲を伴う慈善事業ではなくCSRでもなく、ビジネスとして収益を上げ、そのインパクトによって影響力を強めていく時代になるというのは、もはや予感ではなくそういう流れになる、という確信を得た、今回のソーシャルグッド・カタパルトであった。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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