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8. 人間の考えるプロセスに近い、ヒューリスティック最適化に挑むエンジニアたち

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ICC FUKUOKA 2023のセッション「AIの最新ソリューションや技術トレンドを徹底解説(シーズン4)」、全12回の⑧は、ここまで説明してきたALGO ARTISの計画策定最適化が、いかにその複雑なことを可能にしたのか、いよいよAIの解説に入っていきます。ディープラーニングや生成AIではできない「ヒューリスティック最適化」とは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット KYOTO 2023は、2023年9月4日〜 9月7日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは ファインディ です。


【登壇者情報】
2023年2月13〜16日開催
ICC FUKUOKA 2023
Session 11C
AIの最新ソリューションや技術トレンドを徹底解説(シーズン4)
Supported by ファインディ

「AIの最新ソリューションや技術トレンドを徹底解説(シーズン4)」の配信済み記事一覧


武藤 次に、ようやくですが、AIの話に入っていきたいと思います。

AIですが、技術から語るのでなく、課題から語るべきだと思っています。

最適化手法に求められる要件

武藤 課題は何かというと、計画策定業務の最適化手法に対して求められる要件がめちゃくちゃ多いことです。

代表的な5つを書いています。

まず1つ目が、どんなに複雑でも要件を一切近似してはいけません。

近似せずに扱える必要があります。

これは現場の方が気にしている制約条件を1個でも無視した途端に使えない計画になってしまうからです。

2つ目が、属人化しているので過去のデータが一切蓄積されていません。データベースがありません。

3つ目が、日々計画を更新するので、仮に1日計画を出すのに時間がかかってしまうと、日々の更新に間に合わなくて使えなくなってしまいますので、実行時間に上限を設けた中で運用に使える解を出す必要があります。

4つ目が、先ほどの話に近いところかもしれないですが、要件の変更に対して柔軟であることです。

元々計画を立てている現場の方はとても優秀な方で、昨日今日の失敗を明日の改善につなげていたりするんですね。

なので、1年だと変わらないとしても、5年くらいかかると要件を変えていきたいというニーズがあり、それに対応できる必要があります。

5つ目が、ブラックボックスになってしまうのはダメだということです。

これは、特に人が人に指示を出すときは、なぜこう変えたのかを説明できないと、「いや、なんでそんな変え方をするんですか?」みたいに聞かれてしまいます。

理由も説明できる必要があるので、これらを満たすような最適化手法ってご存知ですか?みたいな話になります。

尾原 そうですよね。

2番、5番があった時点で、もうディープラーニングや今の生成AI(Generative AI)は最初から無理ですよねみたいになってしまうわけですよね。

武藤 そうなんですよ。

とは言え、社会を支えている大事な産業なので、業務を合わせろとも言えない状態です。

これは手法の比較で、ざっと見てもらえばいいのですが、まず左から順に「数理最適化」と「機械学習/深層学習(AI)」と「量子アニーリング」を代表的に書いたものです。

これはどれかしらに「×」がついてしまいます。

例えば数理最適化は厳密に良い解を求める手法ですが、複雑になると計算量が爆増して解けません。

尾原 組合せ爆発が起きてしまう。

武藤 そうです。1週間掛かるようになってしまったり、要件を近似しないといけなくなってしまって使い物になりません。

機械学習/深層学習という狭い意味で「AI」と呼ばれているものについては、先ほどおっしゃっていただいた通りデータがないので、できません。

尾原 5番目もダメと。説明ができない。

武藤 そうです。量子アニーリングについては、そもそも量子アニーリングだと実際の現象にマップしないといけないので、特定の形式で表せないといけません。

だから、複雑すぎると近似しなければいけなくなり使えません。

尾原 モデル近似ができないですよね。

武藤 そうですね。

人間の考えるプロセスに近いヒューリスティック最適化

武藤 ここで全部「○」がつく手法を使っているのが、ALGO ARTISです。

その手法は何かというと、「ヒューリスティック最適化」と呼ばれるものです。

では、「ヒューリスティック最適化って何?」といいますと、問題はどんなに複雑でも、そのまま扱えて、問題については近似を一切しません。

しかも与えられた時間の中でだけで解を探します。

ただ1つ課題があって、「なるべく良い解を出す」ことしか保証しません。

つまり「一番良い」ものを出すことは保証していなくて、「なるべく」良いものを、与えられた時間の中で探して出します。

なのでヒューリスティック最適化は、人間の考えるプロセスにすごく近いです。

尾原 「こっちかな? ちょっとこっちかな?」みたいに。

武藤 そうです。

探索する部分がアルゴリズムで磨かれている技術という形になっていて、下にあるのは「焼きなまし法」という代表的な具体的な手法で、ALGO ARTISも使っているものです。

理論自体はディープラーニングなどと比べるとだいぶ前に確立しているものです。

イメージで言うと、左側の、凸凹がある上のほうは微妙な計画で、一番下が一番良い計画です。

一番下にたどり着くような探索をしたいというときに、歪みを持った金属を滑らかにするときは1回温度を上げて熱運動を激しくして、バラバラにした後にもう1回温度を下げるとすごく良い状態の金属になります。

それで焼きなまし法という名前になっています。

最初のほうはイメージとして熱運動みたいな形で、計画をちょっと変えて採点したときに、悪くなった計画も採用していきます。

それを、金属の焼きなましと同じで、徐々に温度を下げていくイメージで、少しずつ、最後は良くなった計画にしか遷移しないようにしていくと、最終的にローカルミニマムに落ちづらくてグローバルミニマムに落ちやすいような解の探索ができる手法になっています。

尾原 海をダイビングしていくときに、深い所に潜ろうと思ったら最初は潜りやすいんだけれども、実はすごく底が浅い所や、最初入り口が狭いんだけれども、実はむちゃくちゃ深かったみたいな所があったりするので、そういうのを発見していくということですよね。

武藤 そうです。

尾原 結局計画策定の職人の方も多分無意識に同じようなことをしていて、ただ職人の方は1つ作るのが限界なところを、コンピュータだったら複数作ったり、焼きなましの仕方をもっと最新のやり方を使うことで、効率的にできるようになるということですね。

武藤 はい、そういうことです。

都筑 この「良い点数」とは、先ほどの経済合理性や問題のセットアップによって変わってくる形になるんですか?

武藤 そうですね、基本的には例えば、制約を満たしていたら、マイナス1万点みたいな感じで、コストがちょっと増えたとかだったらマイナス200点とか、そういう絶対に守らなくてはいけないものは採点としてすごく重要なものとして扱っています。

なるべくこうしたいみたいなものは小さく扱って、それを計算して1個の点数にする、テストの結果みたいな形で点数にして、その点数で比較していくイメージです。

都筑 若干、強化学習のリワードの設定みたいなところに近いですか?

武藤 確かに。

初手はデータがないので強化学習が使えないですが、システムが5年とか使われ続けた先に、強化学習でモデルを作れてしまえば、探索の時間が一瞬になります。

そういう使い方ができるような初手というイメージです。

都筑 なるほど、夢が広がりますね。

土田 結局先ほどのディープラーニングがダメとか、アニーリングがとかというのは、裏側のアルゴリズムの話かなと思っています。

表側は結局目的関数があって、目的関数のチューニングの部分があって、そこで点数をつけて、点数が良いところに落とし込むため、この方法を使ったらいいか、あの方法を使ったらいいかというところでディープラーニングを使うと、なんかすごそうなんだけれども、なんでそこにいったか誰も分からないみたいな問題があるみたいな話ですよね。

武藤 まさにそうです。

そもそも例えば数理最適化や量子アニーリングは、評価関数自体を近似しなければいけなくて、複雑さの許容性がちょっと低いです。

逆に機械学習はデータがないのでそもそもできないというのもありますが、モデル自体を作る作業なので、職人の方の要件をデータだけから機械学習で作っていくというのがディープラーニングになるので、説明性も低くなるしというので使えないというイメージですね。

尾原 この辺りはなんとなく聞いている皆さん、ディープラーニングは万能とか、GPT万能と思うのですが、意外に他の手法があって、マシンパワーも上がっています。

この後説明があるかもしれませんが、こういった研究領域もものすごい発達してきています。

いろいろなパターンがあるということを今日覚えておいていただいて、「GPTだけじゃなくてヒューリスティックとかもあるんでしょ?」とかと言うと、AIエンジニアが大喜びという話みたいにね(笑)。

武藤 そうですね。最後のスライドにちょっと載せていますが、ChatGPTなどの生成系AIにつながる機械学習や深層学習が解ける課題は結構限定的です。

我々が使っているヒューリスティック最適化は「最適化AI」と呼ばれたりするのですが、社会に浸透していくAIは最適化AIだと思っていることを最後のほうに説明しようと思っています。

尾原 ものすごく分かりやすく言うと、ミッションクリティカル(業務遂行に必要不可欠な要素)な、致命的なものはこちらのタイプ(最適化AI)のものがあって、めっちゃ進化しているということだけ、覚えておいていただけると多分いいと思いますよね。

武藤 ありがとうございます。

競技プログラミングのトップランカーが集結

武藤 1つだけこの手法にも課題があります。

「なるべく」良い解を探索するというのが、イメージで言うと精度を保証していないことになります。

つまり本当に現場で使えるのかというところが、唯一弱点になっています。

ALGO ARTISがDeNAの中で最初事業をやっていたときに、この仮説検証をした結果、少なくとも一流のAIエンジニアの高度な技術があれば可能であることが分かったというのが現状です。

「この一流のAIエンジニアって誰ですか?」と。

誰ですかというと、結構一流の人たちがそろっています。

尾原 (笑)。

武藤 本当に人の力という感じになっていて、多分聞いたことがあるような競技プログラミングのコンテストで優勝を普通に獲っているし、ここに書いていないような実績を多く持っているメンバーがいます。

「ヒューリスティック最適化と言えばALGO ARTIS」ぐらいに徐々になってきていて、競技プログラミングのトップランカーたちが集まってきています。

ホームページにも掲載していますので、もし興味があれば見てください。

尾原 この辺りはKaggleなどで人をハントしたり、Kaggleで「実際どうなの?」みたいなところは、コンテストでバトル・テスティッドな方々が世界では本当に増えてきています。

そういう方が増えるといいですよね。

武藤 そうですね。

特に最先端のChatGPTなどではなくて、ヒューリスティック最適化のような研究的には少し前に終わったものは、競技プログラミングの世界で異様な進化を遂げています。

日本の代表的な競技プログラミングサイトのAtCoderの中でヒューリスティックコンテストがあって、ALGO ARTISがやっている最適化とほぼ対応しています。

そこの優秀なメンバーがALGO ARTISに皆さん来ていただけているようなイメージです。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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