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「自分たちのものづくりは凄いと伝えたい」優勝プレゼンで社長が込めた、社員へのメッセージと、増殖するクラフテッド・コミュニティ【ICC KYOTO 2021レポート】

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9月6日~9日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2021。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、錦城護謨の太田 泰造さんが優勝を飾った「CRAFTED CATAPULT 豊かなライフスタイルの実現に向けて」と、その後に行われた登壇者+審査員が集結してものづくりについて議論する「クラフテッド・ラウンドテーブル」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


さまざまなジャンルのものづくりの企業が集うクラフテッド・カタパルトは、ICCサミットの可能性を大きく広げている。

このカタパルトは、農業、飲食、工芸、アパレル、デザインなどさまざまな背景を持つ人が集うが、新事業への挑戦やマーケティング、文化・技術の継承などで、業界は違えど共通する課題を抱えているため話が弾み、発見と出会い、学びの多い場となっているようだ。

コミュニティの新陳代謝としても、いいものを知る人たちだからこそ、いいものづくりをしている知り合いがいて、仲間が増えていくという好循環ができている。コミュニティを盛り上げようとしてくださる方々にも恵まれ、2019年の京都での第1回開催以来、バラエティに富む仲間が増えてきた。

そして自然と、登壇する方々の現場を見たいという話にもなり、最近はものづくりの企業を訪問する「クラフテッド・ツアー」を行っている。

カタパルトのプレゼン練習やフィードバックもできるため、初参加で登壇する方にそれを兼ねて見学にうかがったりもしている。現地に赴いて実際に見学し、その空気の中で話を聞くことの学びはとても深い。

このツアーの経験は、今回のICCサミットで、デザイン・アワードと、マルシェ・アワードという形に昇華した。詳しくはそれぞれの記事をご覧いただきたいが、体験と解説を含めた展示をして、アワード形式にして競争原理を持ち込む。話だけではなくプロダクトを手に紹介できるとあり、経営者自らがブースに立った。

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そんな多角的なコンテンツを生み出しているのがこのクラフテッド・カタパルト。以上のような理由もあって、事前にお会いしている方々が今までになく多かった。

ICC初参加の登壇者たち

このカタパルト会場後方の、幾多のチャレンジャーのプレゼンが見える位置にマルシェのブースがあるアグベルの丸山 桂佑さんは、ICC参加2日目で、ついに自身の登壇を迎える。たくさん用意したという素晴らしくおいしい最高級のシャインマスカットはもう残り少なくなっている。

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「自分の子どもがまだ小さいのですが、最高級とか損得なしに、喜んで食べるのを見ると嬉しいんですよね」と言い、黒々とした瞳の丸山さんがぶどうのように見えると言うと、「B品ですかね!」と笑ってみせる。あまり緊張していないようだ。

今回、ラテブースのコーヒー豆や、マルシェ・アワードでもスペシャルティ・コーヒーの提供をいただいているKOHIIの大槻 洋三さん。ゴールドマン・サックスに勤めていた時代と今を比較すると「お金や外部からのプレッシャーもまだないですし、自然に広がっていって楽しいし、苦にならないですね」と話す。

カタパルト会場司会の浜田さんとKOHII大槻さん

大槻さん登壇のいきさつは、ICC一行が関西に出張に行った際に、今回カタパルト会場の司会を務めるスタッフの濱田凛さんが面白いコーヒーショップがあると、大槻さんが経営するKurasu Kyotoについて話したことから。そこでインターンをしている浜田さんは、今回は大槻さんを司会としてサポートする。

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大槻さんと談笑していたため旧知の仲かと思ったが、これが初対面だというのは、WAKAZEの稲川 琢磨さん。ともに海外経験があり、嗜好品の飲料に携わるという共通点がある。世界の食文化の中心地、パリで日本酒を造る稲川さんもICC初参加だ。

大槻さんと談笑する稲川さん(写真右)

稲川さん「味もデザインも現地にローカライズしており、ワイン市場に合うお酒を意識して造っています。自分たちが今、酒革命を起こそうとしている取り組みや、どういう熱量でお客さんがついてきているのか、我々がやろうとしているダイバーシティやサステナビリティは、ヨーロッパだからできていることだと思うので、日本とは違う切り口でお伝えしたいです。

食の中心地、パリだからこそできることもあると思っています。一番難しいところからやるというのが、昔からやりたかったことでした。構想としては5〜6年かけて練ってきたので、今ようやくちょっと花開いてきてすごく嬉しいですし、お客さんの熱量も伝えたいです。

今回はFar Yeast Brewingの山田さんのご紹介です。起業する前から背中を押していただいて、ぜひ出たほうがいいよ、ICC最高だよと言っていたので、出るしかないと思いました。事業を起こそうと思ったのは、彼が成功していたからです。彼は僕のメンターですし、少しずつ出てきた結果を報告できるのは嬉しいです」

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熱く語る稲川さんに、ICC初参加の感想を聞いた。

稲川さん「正直、あまりの熱量に圧倒されています。これだけ熱量のある人たちが集まっていることに逆に狭窄感もありつつ、自分も経営者としてパッションでやっている部分もあるので、周りの熱量に感化されて、今、すごいエネルギーが満ち溢れている感じです。

ヤッホーブルーイングの井手さんが出ていたセッション(Session 4D「ウイニングカルチャーについて語り尽くす」)を聞いたのですが、めちゃくちゃ刺激的でした。同じアルコールの会社で、あれだけの規模になってもあれだけの熱量があるってすごいなと、学びが多かったです」

アルコールには逆風が続いたこの2年弱。いいものを造り続けるだけでは足りないと言う。

稲川さん「いいものは、伝えなければ伝わらないと思っています。どうしたら現代のやり方にそって伝えられるかが大事で、フランスという場所でも違い、どこまでお客さんのニーズの変化に対応しながら、自分たちのアイデンティティを保ちつつブランディングしていけるか。ブランド価値の重要性がより高まっているのかなと思います。

昨日ものづくりのセッション(Session 5D「末永く愛されるブランドを作るには? – 「モノづくり」と「モノがたり」を語り尽くす」)でも、本物のものづくりをしていないと、いつか化けの皮がはがれるとみなさんおっしゃっていました。そこは自分たちも苦労して作り上げてきた部分なので、自信を持っています」

リハーサルを終えたばかりの錦城護謨 太田 泰造さんは、この日、プレゼンするKINJO JAPANのグラスをデザイン・アワードにも出展している。「みんなが僕にプレッシャーかけてくるんですよ」と嘆きながらも、いよいよ本番。「まじめなんで緊張すると思います」と言うが、カメラを向けるとにっこりとポーズ。いつもと変わらぬように見える。

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前回このカタパルトに登壇して2位に入賞したアックスヤマザキ 山﨑 一史さんが、太田さんの激励にやってきた。山﨑さんは、錦城護謨の工場の近くのマンションに住んでおり「僕らをいつも見下ろしているんですよ」と太田さんは言う。

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太田さんの激励に訪れた山﨑さん(写真右)

山﨑さん「(プレゼンで)噛んだら、笑ってやるわ」

関西人同士の愛あるいじりでエールを送る山﨑さんは、今回審査員の立場でチャレンジャーたちのプレゼンを見守る。

緊張の表情でリハーサル

日本やイタリアのデッドストック、後継者不足で消滅してしまいそうな日本の伝統工芸を用いたアパレルで、現代と伝統の接点をつくるDodiciの大河内 愛加さんも、デザイン・アワードに参加。西陣織の老舗、細尾を訪ねる特別プログラムにも参加して、交流を深め、知り合いも増えたという。

大河内さん「めっちゃ緊張しています。こんな大きな会場でプレゼンするのは初めてなのでドキドキが…」

同じ特別プログラムやデザイン・アワードに参加して、このカタパルトにも登壇するTokyo Athletic Unitedの内柴 有美子さんは、リハーサルを行うステージ上で、自分がデザインしたウェアを着たスタッフに囲まれている。自身も、一見ゴルフウェアには見えないワンピースをまとっている。

内柴さん「できることをやるだけです。今回ICC初参加ですが、デザイン・アワードにも出て、審査員の方々や、知っている方も増えました。スタッフのみなさんがHERGのウェアを着ているのを見て、すごく嬉しいです」

プレゼンに初挑戦する職人たち

今回、登壇は決定したものの、こういうビジネスカンファレンスに無縁だった人が2名いた。まさにクラフテッドで言葉数少ない職人ふたり。はたして、こういう場でどんなプレゼンをするのか。

まずはこちらのたこ匠。なんとICC小林とのプレゼン練習なしで本番に臨む。

リハーサル中の金楠水産の樟 陽介さん

前回登壇した、ワシオの鷲尾 岳さんに「とにかく美味いタコが明石にある」とご紹介いただき、金楠水産を訪れて、実際にタコを見ながら食べながら、茹でる工程のお話を聞き、その場で登壇が決定した。

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誰にも真似できない技術を、言葉少なに語るさんはこの時、「プレゼンって、どんな感じでしょうか…」と尋ね、ICC小林が「大丈夫大丈夫! いま話してもらった感じでいいです!」と答えて、この日を迎えた。この時カタパルトについて話したのは、試食があったほうがいい、ぐらいであったと思う。

結果的にはさんらしさ全開の印象的なプレゼンとなった。とんがった人たちが集まるICCサミットでもで異彩を放ち、マルシェでそのタコが試食できることや、金楠水産のタコが段違いに美味しいということが、聞いた人には刻まれたと思う。

もうひとりの職人、鍋島虎仙窯の川副 隆彦さんは、数少ない職人集団によって守られてきた鍋島焼の伝統技術を受け継ぐ窯元。4月にICC一行はその里を訪れ、陶芸体験をさせていただいた。

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カタパルトは、今回から新しいロゴが誕生した。カタパルトの誘導を担当していた運営スタッフの狩野 菖さんの「優勝の記念になるものを」という発案で、ウィナーボードとトロフィーを制作しようというアイデアから、カタパルトのロゴも新しく作ろうという話に発展。普段は所属先でデザイナーとして活躍している狩野 菖さんと、米永 さら沙さんがデザインを担当した。

優勝プレートを紹介するICC小林と、スタッフの狩野さん

それを優勝プレートとして制作してくださったのが、この川副さんである。新しいロゴが描かれたこの優勝プレートは、何度かの試作を経て、この会場に到着した。川副さんは前日のカタパルトから、優勝者が発表されてプレートが掲げられる様子を見ていて、いたく感動したそうである。

 

川副さん「鍋島焼をこうして紹介してもらって感動しています。優勝した方がワーッと笑顔で掲げてくれて、本当によかったなぁと。こんな優れた企業の方々が、こんなに喜んでくださるなんて、嬉しいです」

クラフテッド・カタパルトに登壇する方のお話を聞いて改めて知るようになったことだが、作り手は、作ったものが人の手に渡り、使われている場面に居合わせることは少ない。川副さんにしろ、スタッフユニフォームを作ってくださった内柴さんも、何度も「嬉しい」と口にしていた。

川副さんは、パワーポイントも、グーグルドキュメントも普段ほとんど触ることがなく、プレゼン練習をした時も、正直なところ、本番に間に合うかどうかという状態だった。PCに向かうよりも手に筆を持ち、素晴らしく細かい絵を器に描く職人さんである。

果たして大丈夫だろうか……登壇前の緊張が手に取るように伝わり、それ以上は声をかけることがはばかられた。

グローバル展開を予定するMakuake

プレゼン開始直前、恒例の拍手セレモニー

クラフテッド・カタパルトが始まると、優勝商品の紹介や、優勝プレートの紹介のあと、このカタパルトをスポンサーいただいているMakuakeの坊垣 佳奈さんのスピーチで、こんな内容があった。

坊垣さん「Makuakeは、新しいものやサービスの応援購入サービスとして、一定の認知ができてきたので、現在はものづくりの人たちに、Makuakeにぜひチャレンジしてほしいと呼びかけています。

グローバル展開も今後は視野に入れていて、海外でも決済をできるようにして、Makuakeで紹介したものをシームレスに海外に届けていく体験を作っていきたい。その他にも新しいことをいろいろと仕掛けています」

登壇企業には、Makuakeを通じてプロダクトを紹介しているところも多い。慣例にとらわれない新作発表の場として使われていると思うが、それがさらに国境を越えて、いきなり世界デビューできるということになる。Makuakeで紹介されている商品やサービスのアイデアの豊富さは驚くばかりだが、それが世界を驚かせるようになるというわけだ。

世界に自分たちのものづくりを届ける希望をのせて、第6回目のクラフテッド・カタパルトが始まった。

プレゼン中に現物配布が次々登場

現在書き起こし記事を順次公開しているので、プレゼンについては動画とともにご覧いただきたいので、ここでは登壇企業のプロダクトが次々と配られた審査員席の様子についてご紹介したい。

Dodiciの大河内さんは、審査員に西陣織のマスクを配布。これは昨年のコロナ禍において、1カ月で5,000枚を受注し、通常時の数倍もの生産を依頼できたという。

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プレゼンを聞くと、触ってみたくなるKINJO JAPANのシリコーンゴムのロックグラス。手にとってグニャリと押し曲げる人が続出していた。

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金楠水産のさんは論より証拠とばかりに、普通のタコと、自分のタコの食べ比べを提供して、審査員に「黙ってたこを食べて」と要請した。その間、当然プレゼンはストップし、審査員席は静寂に包まれた。

この他、HERG1(Tokyo Athletic United)のゴルフウェアの回覧、KOHIIからはエチオピア産の豆を使ったホットコーヒー、アグベルからシャインマスカットが配布された。開催時は緊急事態宣言中だったため、京都市のルールに従って残念ながらWAKAZEのお酒を提供することはできなかった。

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審査員たちの温かいコメント

投票が終了すると審査員の総評コメントタイム。以前から鍋島虎仙窯にアドバイスを行ってきた中川政七商店の中川 政七さんも驚いている。

「コンサルに入ってどうなることかと思ったし、プレゼンもどうなることかと思っていたのですが良かったです! 全般的に本当に、レベルも共感度も高いし、さすがだなと思いました」

マルシェ・アワードの展示では、アグベルと隣り合わせのブースに並ぶ西尾 修平さんは、HiO ICE CREAMでコラボアイスクリームを発表している。

『アグリカルチャーに新時代の鐘を鳴らす』アグベル 丸山さんの飽くなき探求心(HiO ICE CREAM)
巨峰 GRAPE(HiO ICE CREAM 公式 Facebook)

「アグベルの丸山さんとは起業のタイミングが近くて、個人的にも共感しています。登壇したみなさんに共感するものがあって、ぐっときました」

前回優勝したKAPOK JAPANの深井 喜翔さんは、今回審査員席からの参加だ。

「恐れ多すぎると思っているのですが、審査で見させていただくのは、贅沢な体験でした。

鍋島虎仙窯の川副さんのプレゼンにあった『昔はいいものを作るだけでよかったけれど、それだけでは足りなくなって、ものづくりからものを語るフェーズに変わっている』というのが、今求められていることなのかと、そんな時代なのかと思いました」

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登壇者のプレゼンですっかり感銘を受けたICC小林も、企画側から一言話したいとマイクを握った。

「生産者は面白いですね! 今回はアグベルの山梨のぶどう園に行ったり、大阪から車で2時間かけてタコを茹でている現場、明石にも行きましたが、日本にはすごくいいものがたくさんあるのに、埋もれすぎている。これはもったいないと、本当に思います。

だから、直接伝えるこういった機会は本当に素晴らしい。かつ、プレゼンは3カ月ぐらいかけて練習すれば、どんな人でも絶対できると思いました。川副さんは、最初できませんと言いましたが、立派なプレゼンでした。僕も勇気をいただきました」

「社長として、伝えきれていない想いをプレゼンに込めた」

投票の結果は、既報の通り3位アグベル、2位Dodici、そして優勝は錦城護謨に決まった。いつも余裕しゃくしゃくで、口を開けば冗談が出てくるような太田さんは、優勝を予測していなかったのか、一瞬驚いて、深々と頭を下げた。

胸に「KINJO RUBBER CO.,LTD」と縫い取りのある工場のユニフォームを着て、マイクを握った太田さんが語ったのは、プレゼンでも繰り返した、社員への想い。優勝の感想を求められ、投票した審査員への感謝を述べながらも、太田さんは率直に経営者としての葛藤を吐露し、社員に語りかけた。

「本当にありがとうございます。ここに出るまですごく緊張して、どうしようかなと思ってどきどきしていました。BtoBでやってきたのですが、皆さんに一つでも、ものづくりの魅力や面白さを伝えたいと思って、その想いだけでやらせていただきました。

プレゼンの中でも言ったのですが、会社で長くやってきているなかで、すごい技術やすごいものづくりをしているのに、それが一番社員に伝わっていないなというのがありました。

もっと自信や誇りとか、そういったものを、僕は社長として、みんなに伝えきれていないという、至らなさとか辛さとかをプレゼンに込めてやらせていただいて……ちょっとグッときてしまっていますが、本当によかったです。

今日登壇されたみなさん、誰が優勝してもおかしくないと思っています。そのなかで認めていただけたことが嬉しいです。改めて社員にすぐ伝えたいなと思っています。どうもありがとうございました」

錦城護謨は、大阪の工場も大きく、訪問レポートでも一部紹介したが、ナショナルブランドの家電に不可欠なパーツを担い、水泳選手の記録に貢献するスイミングキャップを作り、全国の高速のETCの踏み板を作り、視覚に障害のある方のための歩道誘導マットを作り、豊洲市場の地盤の水を抜いているような会社である。

BtoBで安定した大きな事業を持つ会社が、なぜBtoCでゴム製のグラスを作る必要があったのか? それは自分たちの技術を称えるためであり、経営者の従業員への想いを形にしたものだ。優勝コメントでもそれをなお伝えようとする太田さんに同意するように、審査員席からもうなずく頭が多数見えた。

太田さんには後日、優勝インタビューでこのロックグラスが生まれた背景をうかがうことができた。

「皆さんのプレゼンを学生に見せたら、跡継ぎになりたいという人が増えるのでは?」と、Makuakeの坊城さん

第2部はクラフテッド・ラウンドテーブル

議論したいテーマのもとに集って語り合う

続くラウンドテーブルでは、ものづくりに関わる方々、カタパルトで登壇を終えたばかりの方々、審査員の方々が一同に会して、5つのテーマを決めて、話したいテーマのもとに集って50分のディスカッションを行った。

ここではテーマの提案者と、50分間に渡る各グループでのディスカッション後の発表の内容をダイジェストでお伝えしよう。

<議論テーマ>クラフテッドとスケール

WAKAZE稲川さんがテーマを提案

結論:クラフトメーカーであり続ける要素を守る

ヤッホーブルーイング井手さん「自分たちの規模を、カルチャーを変えるぐらい大きくしようとしていたんですが、そうするとクラフトではないという悪いイメージがついてしまう。その対策として、クラフトビールについて10年先を行っているアメリカの、大きく成長しているメーカーの事例を研究したんです。

そこで、革新的な活動をしている、作り手の顔が見えている、個性的な味のビールを作っているという、3つの要素を見つけて、これを守れたら大きくなっても大丈夫だと、活動を始めました。

するとGRAのイチゴは、1粒1,000円で売っているけど、投資家から売上を伸ばせと言われてもそんなに売れるものではないから、いろいろな価格帯で売上を作っている、本当に高い価格帯はスケールを狙ってはいけないのか?という問いが出ました。

それに対する答えは出なかったのですが、スケールのために値引きをするとブランドイメージを損なうので、値引きはよくないという話になりました。価値を伝えることでアパレルの業界で成長もできているといいます。そんな話をしました」

<議論テーマ>顧客のコミュニケーション、エデュケーション。どうやってブランドの良さや品質を伝えるか

Minimal山下さんが提案。人気の集まったテーマで2グループでディスカッションを行った

グループ①の結論:
熱のある最初の顧客を作り、LTVを見据えたエントリー商品を用意する

Minimal山下さん「本質的な良さをどうお客さんに伝えるかには2つあり、獺祭の櫻井さんに聞いたことですが、1つは情報ではなく、熱を伝達していかなければいけないということです。情報を伝えるのも大切ですが、熱を伝えるうえで、直接的なコミュニケーションは非常に大事だということです。

ブランドが始まるときは、作り手の顔が見えるので熱が伝わっていきますが、大きくなったときに、社内外に同じ熱を持つアンバサダーをどれだけ作れるか。社内にも、お客さんにもです。そのときに、大きな市場に行くよりも、最初のお客さんを絞って選ぶことが大事で、熱のあるお客さんを最初に作っていく。

フェラーリは、7台買っても買えないラインがあるといいます。

もう1つは、何から買ってもらうかでLTVが変わるということです。自分たちの差別化のポイントと、ポイントが生きる商品の選定とその市場の大きさを考えて、エントリー商品を置いておくことが大事だということです。

木村石鹸にははじめての木村石鹸セットという、技術がすごく伝わる風呂掃除のセットがあって、この商品には市場的にニーズがあり、あまり競合がいない。まずそれを買ってもらって、そこにわかりづらい商品を1つ入れておくと、木村石鹸は技術があり、この商品もいいはずだとつながっていく。

エントリー商品を伝える商品を何にするか。プロダクトポートフォリオとその間のCRMのコミュニケーションもちゃんと設計しておくと、情報だけでなく、熱も伝わっていくのではという話でした」

グループ②の結論:
今の自分たちの顧客、今後狙う顧客を理解して、アプローチを変える

結わえる荻野さん「横軸の右はお金を出す・左は出さない、縦軸上からクラフテッドのこだわりがある・ないという顧客層について、このマトリックスを使って話をしていました。

右上10%の象限……リテラシーがあり、お金を払う層
左上20%の象限……リテラシーはないが、お金は払う。何となく良いとされる商品を買っている層
右下30%の象限……勉強好きでリテラシーはあるが、1.5倍の値段は払わない層
左下40%の象限……安ければ一番いい層

今の顧客はどこなんだろうと考えること、今後、どこの顧客を狙っていきたいのかというのを決めることが大事だという話をしていました。どこでも商売は成り立ちますが、興味のない人にどうやって売るのか、リテラシーがない人にどう伝えるのか。それで取るべきアクションは変わります」

<議論テーマ>コロナ禍を経て新たに発見した、クラフテッドと相性のいい販路とは?

マザーハウス山崎さんが提案。こちらも2グループに分かれて議論した

グループ①の結論:
ブランドよりプロダクトが優勢の現在、メディアもリアルも様々な可能性がある

マザーハウス山崎さん「できる限りのアイデアを出し合いました。総じて言うと、その人がなぜ売るかということがすごく大事になっていることと、ブランドよりも、特定のプロダクトに意味があるほうが、全然売れる世界になっているということです。

観光地では、エリアのお客さんを巻き込んでECサイトをやっているとか、顧客を持っている雑貨屋さんと組んで、近くにショールーム構えてがっつり一緒にやっているという話がありました。

YouTuberの成功事例もたくさんあり、専門領域化していて、設計士さんのYouTuberがカーペットを売ってくれているという話や、釣師のYouTuberが紹介して靴下が売れたとか。ただフォロワーが増えれば増えるほどファンが薄まって売れなくなったそうです。YouTuberに熱をもってプロダクトを紹介するなど、プロセス設計は重要です。

丁寧に伝えられるため、メルマガとクラフテッドは相性がよい。また、ふるさと納税とも実は相性がいい。Makuakeの紹介映像でもありましたが、まずはBtoCでやって、その結果をもってBtoBの新しい販路を見つけにいくという手段もあります。

クラフテッドだとブランドを紹介したいとなりますが、メディアに取り上げられたときはプロダクトのほうが何倍も反応がいい。むしろ、どのプロダクトを立てて紹介していくかが大事だと思います」

グループ②の結論:
事業開発と徹底的に人に向き合うことで、販路が拓ける

エイトブランディングデザイン西澤さん「コロナ前は、既存販路にブランディングで最後ひと押しすることで結果が出やすかったのですが、コロナで違う販路を見つけなければいけなくなりました。

出た話を全部紹介したいところなのですが、かいつまんで。自分のプロダクトは命で重要なのですが、今はプロダクト一気通貫でいくのは難しい。今、やるべきは、販路開発でなくて、事業開発であると考えています。

たとえば、自分たちのプロダクトのよさだけを言うのではなく、もう少し仲間を集めるグルーピングをすると、結果的に販路が一気に広がる。宮治さんならばみやじ豚を売ろうとするのではなく、”バーベキュー”を売る。そうするとキャンプ道具やビールとのコラボが生まれ、住吉酒販さんならお酒を売るのではなく”九州の食”としてつながることで、一気にマーケットが広がる。

もう1つ面白かったのが、大逆風といわれる百貨店の阪急さんの取り組みです。今、なんと販売員全員がLINEで、外商さんでなくて、いち販売員がお客さんと個別にやりとりをしているそうです。自由に百貨店を見て歩くことができなくなった今、百貨店に求めているのは、出会いやコミュニティ意識だからです。

僕らの結論としては、上位レイヤーで事業開発か、もしくは真逆の、徹底的に人にこだわることで販路を拓くということですね」

<議論テーマ>プロダクトの話が中心となりビジョンを伝えにくいクラフテッドの世界。いかに伝えるのか?

中川政七商店 中川さんが提案し、アグベル丸山さんやKOHII大槻さんと議論したいと逆指名

結論:消費者が知るのは商品から。コミュニケーションの順番設計と組み合わせが独自性を伝える

インターナショナルシューズ上田さん「消費者にとって、ビジョンを知る順番は企業と違います。

企業にとっては、どんな世界を創りたいかというビジョンがあってスタンスが生まれ、それが表れる商品を作って消費者が知ることになりますが、消費者は逆で、まずは商品を知り、その先に企業やブランドのビジョンを知っていきます。

そこで、順番を間違えないようにコミュニケーションを設計しないといけないという話になりました。

中川さんがおっしゃっている、プロダクト、ライフスタイル(企業の世界感)、ライフスタンス(企業の姿勢、ポリシー)を、いかにうまく組み合わせて、伝えていくか。そこに各企業の独自性やストーリーが現れるのではないかという話になりました」

<議論テーマ>クラフテッドとクリエイティブの関係性

FABRIC TOKYO森さんが提案

結論:自分たちの「朝顔」「山椒」を探せ

Takram渡邉さん「3つの問いを深堀りすることで議論しました。

『パッと見て自社と伝わるか?』ブランドアイコンをどうするかという議論を始めました。色だとエルメスのオレンジ色、形だったらダイソン、人だったらイーロン・マスク。でもクラフトは結局、体験しないと伝わらないものだよねということで、次の質問へ行きました。

『マニアックな深堀りは、玄人にしか伝わらないのか?』素人と玄人はトレードオフなのか?という問いに、FABRIC TOKYOの森さんは、両方、質をあきらめずに作っていくべきであると言います。『秋元康のおニャン子クラブ理論』というのがあるらしく、一見超ポップだけど、コード進行を見るとプロもうなる、みたいなのが大事だということです。

では、素人でもこだわりをどうわかるようになっていくのか? これは顧客エデュケーションのテーマともつながりますが、『こだわりをどう伝えるか?』。可視化するものづくりとして、ダイソンの掃除機なら透明になっていてサイクロンが見えるとか、BMWのロゴならば、空が描かれていて飛行機のプロペラがモチーフなのがわかる。

もっとあるよねと考えてみたところ仮説は2つありました。

1つは『引き算仮説』です。千利休の庭の朝顔が見事だという話で、豊臣秀吉が噂を聞いて見に行くと、1つもない。期待値が高かったのに落胆して、狭い茶室に入ってみると、一輪だけ見事な朝顔がある。そこで気分がグーッと上がります。この話の何がすごいかというと、秀吉の感じる心、感性を開いたこと。たった一輪なのに、がつんとくる。これは引き算ですよね。

千利休「江岑夏書」よりその2(茶の湯 こころの美)

もう1つは私事になってしまうのですが、先日、ものすごく辛く、痺れるような麻婆豆腐を食べてエビスビールを飲んだら、エビスビールがとても美味しく感じたんです。麻痺して味覚がぼろぼろになっているかと思ったけれど、普段ない香りのよさ、華やかさを感じるようになりました。

それが不思議だったと言ったら、ファーイーストブルーイングの山田さんが、山椒は味覚を鋭くする作用があるのと言うのです。

そこで、自分たちの『朝顔』は何か、『山椒』は何かと探していこういう話になりました」

終了後に、ICCサミット初参加で今回のクラフテッド・カタパルトに登壇いただいた複数の方から聞いた感想だが、このラウンドテーブルでのディスカッションは、非常に学びが多いようだ。

尊敬する経営者やマーケター、普段接点のないような異業界の人たちと、頭を突き合わせて真剣に議論をする。自分の事業や悩みを率直に語り合う。「こんなすごい人たちがいるなんて!」と、興奮している様子だ。毎回ラウンドテーブルの議論と最後の発表を取材していても驚嘆するが、当事者にとってはとりわけ刺激的な時間だったに違いない。

カタパルト、ラウンドテーブル、Co-Creation Nightや特別プログラムといった、さまざまな切り口、体験を通して経営者たちが出会って、ものづくりの世界に新たな風を、いいものを作るだけではなく確実に伝えて届けることに知恵を絞り、惜しみなく経験を共有し、議論を尽くす。

今回出会った企業同士で、すでに取り組みが始まっているところもあると聞く。5回目を重ねたこの場は、ものづくりの仲間が支え合う、かなり強力なコミュニティに成長してきたのではないかと思うのである。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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