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「Do it with Joy」で新たな時代を迎える、ソーシャルグッド・カタパルト

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 9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、LivEQuality大家さん 岡本 拓也さんが優勝を飾ったDAY3の、ソーシャルグッド・カタパルトの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ソーシャルグッドの雰囲気が変わってきた

 ICCサミットの場だけかもしれないが、ソーシャルグッドについて語ること、事業にその要素を備えることは、もはや社会のスタンダードとなってきている。

 成熟した国であっても当然のように社会の負や課題は数多く存在する。それに取り組むプレイヤーはどんどん顕在化してきている印象だが、リディラバ安部 敏樹さんのプレゼンによると、NPOの数は減少傾向にあるそうだ。当然ながら課題はすぐ解消されるわけではなく、むしろ新たなプレイヤーが来て、毎回新たな課題が表面化する。

 そうは言っても、以前は悲壮感すら漂っていたこのカタパルト、段々とその雰囲気が変わってきたように感じられる。ICCサミットの最終日の目玉コンテンツとなって存在感を増し、今回のソーシャルグッド・カタパルトは、緊張感より課題解決の意欲ではち切れそうであった。

 前回のICC FUKUOKA 2024でW優勝を飾った二人の、今回登壇する10人にエール、冒頭のスピーチはこんな感じだった。

テラ・ルネッサンス鬼丸 昌也さん「皆さん緊張されていると思いますが、皆さんの言葉を待っている人たちがいます。その人たちに、皆さんの言葉を届けてください。皆さんの言葉が世界を変えていきます!」

元子ども兵の社会復帰支援で、紛争の平和的解決を目指す「テラ・ルネッサンス」(ICC FUKUOKA 2024)

日本承継寄付協会の三浦 美樹さん「『残念ながらNPOのプレゼンでまともなのを聞いたことがない。僕はスキルを伝授したから、後は自分の足で立て、自分のプレゼンで切り開け』と(ICC小林)雅さんがおっしゃって、私はハッとして、すごい挑戦の機会をいただいていると思ったんです」

亡くなった後に自分のお金を寄付する「遺贈寄付」で、思いやりが循環する社会を目指す「日本承継寄付協会」(ICC FUKUOKA 2024)

 鬼丸さんの事業は、プレゼンをご覧いただければわかるように、信じられないほど悲惨な状況にある子どもたちに向き合う事業である。それを鬼丸さんは「使命感より強い平和への好奇心で取り組んでいる」と笑顔で語り、三浦さんも「あと3社の支援で、ソーシャルセクターに約40億円の還元ができる」と力強く呼びかけた。明らかにソーシャルグッドのプレイヤーたちは力を増している。

大変だからこそ、「Do it with Joy」 

 ソーシャルグッドに取り組むことは、誰もが生きやすい社会を作る、面白くかつやりがいのある事業である。深く関われば、対峙する相手の人生が変わるという手応えがある。運営スタッフたちの間でも人気も共感度も高いカタパルトであり、最終日は運営の手が空く人も多く、見学に来ていることも多い。

「一体となって最高の場を作ることが感動を生み、ムーブメントを生み、社会を前に進めていくと思います」
今回、初ナビゲーターを務めた豊島さん(写真左)もソーシャルグッド・カタパルトの大ファン

 登壇者も審査員も運営スタッフも観客も、本気の人たちがこうして集まって、応援しあうことで雰囲気は変わる。カタパルト冒頭のスピーチでその提唱者であるユーグレナの出雲 充さんもこう言っていた。

「僕はずっとムハマド・ユヌス先生を見て、ソーシャルビジネス、ソーシャルグッドを追求する仕事をやりたい、みんなにも知ってほしいと思い、日本にはユヌス先生がいないので、及ばずながら自分がそういう一人になれたらいいなという夢があります。

ムハマド・ユヌス博士について(龍谷大学)

でもそんなことをしなくても、日本は絶対ソーシャルグッド革命ができますね。今日ここに来て思い出しました。こんなにたくさんの先輩方が、審査員の皆さんが応援してくれている。日本にはソーシャルグッド・カタパルトがある。これは本当に意味がある仕事だと思います。(ICC小林)雅さんとスタッフの皆さんがこの素敵な場を作ってくれたことに、心から感謝を申し上げたいです。

ユヌス先生が作った「ソーシャル・ビジネス7原則」、その7つ目に『Do it with Joy』というのがあります。

ユヌス・ソーシャル・ビジネスとは(YUNUS JAPAN)

ソーシャルビジネスというのは本当に大変です。いじめられたりバカにされたり、何カッコつけてるんだ、と言われる。でも84歳の僕の師匠が、今、めちゃくちゃになったバングラデシュを立て直すために笑顔で頑張っている。

ノーベル平和賞受賞のユヌス氏、暫定政府を主導へ バングラデシュ(BBC NEWS JAPAN)

皆さんも普段大変なお仕事をされていると思いますが、ソーシャルグッドに取り組んで疲れて、もう本当に困っている、京都に来る元気もないような中継画面の向こうの仲間にも笑顔が伝わるような、元気いっぱいの『Do it with Joy』を、ユヌス先生に敬意を払う意味も含めて、最後まで一緒にやり切っていただきたいと思います」

11人の挑戦者たち

 挑戦者のプレゼンをご紹介しつつ、彼ら・彼女らの横顔をご紹介していこう。まず、優勝を飾ったLivEQuality大家さん、前夜祭会場で聞いたお話から。 岡本 拓也さんは、日本承継寄付協会の三浦さんからの紹介でICCのことを知った。

▶【優勝】「大家×NPO×ファイナンス」で、シングルマザーの課題を住まいから解決する「LivEQuality大家さん」

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「日本承継寄付協会の理事をやっていて、今回、三浦さんから出ませんかと言っていただきまして。名古屋で頑張っているのでそんなキラキラした場に呼んでいただいてもと思ったんですが(笑)、せっかく機会を頂いたので面談をお願いしたら、『いいね』と言ってくださって。

(小林)雅さんにいいねと言っていただけるのであれば、ちょっと頑張ってみようかなと。でも思ったよりも準備が大変で、ハハハ。すごくいい機会になっています。ありがたいです」

日本ではまだ馴染みの薄いアフォーダブル・ハウジングの事業にどうして着目したのだろうか。

「住まいは誰にとってもすごく大事な場所というのが、一番あります。それが日本で、特にコロナの後は、難しい状況に困窮されている方がいらっしゃるというのを知った時に、一言で言うと、いてもたってもいられなくなりました。コロナが起こって、自分に何ができるかを本当にすごく考えたんです。

それまで私は建設会社をしていました。今も建設会社の社長ですが、20代は会計士で企業再生の仕事をビジネスの分野でやっていて、30代は勢いあまってソーシャルに全振りして、まだソーシャルベンチャーとか言われ始めた頃ぐらいにNPOに飛び込んで、年収が何分の一に減りながらもやっていたんです。

その世界が好きで、ずっとやっていくかなと思った時に、父が急に他界してこれもご縁かと家業に戻ったんですが、それから2年経った時にコロナが起こって。全部繋げたらできるんじゃないかって思ったのがアフォーダブル・ハウジング。住まいの問題はお金もかかるし、お金だけでなくて生きるベースだから。

LivEQuality大家さんは、
ソーシャル大家®事業として、低価格で気持ちのいい住まいを母子家庭に提供している

NPOも必要、ファイナンスも必要、建築も建物もできる。これは自分がやるしかないと思って旗を立てたら、すごくいい仲間が集まってきてくれました。今は関わってくれている人を全部含めて15人ぐらいでやっています。シングルマザーに伴走するNPO、資金調達して気持ちのいい建物を届ける株式会社、ベースとしての建設会社というハイブリッドでなんとか実現していきたい」

今までの経歴と、社会性も経済性を全部つなげた事業に、これからの野望が膨らむ。

「これから政策提言などもして、欧米並みの税制優遇ができたら日本でマーケットもできますし、この取り組みは結構引きが強くて、今首長さんや東京都などいろんな方々が、すごく興味を持ってくださる。投資家の方々も新しいインパクト投資はよく分からないけどこの事業はいいねと言って、資金を預けてくださるんです。

シングルマザーに市場価格から3割引いた家賃でご提供していますが、空き部屋の稼働率が上がるというのが大きくて、空いているより安くても入居していた方がいい。売上は単価×数量なので、単価が下がっても数量が上がれば売上が上がります。

社会性も高いので、利回りが低くて期間が長い資金を集めてくださる投資家の方と一緒にこの市場を作っていける。社会性と事業性を両立させたビジネスです。今やっとゼロイチを越えて、なんとかモデルができた。ここで終わっては意味がないので、これをどうスケールさせていくかという段階です。

そのタイミングでICCに登壇させていただくのは非常にいい機会だなと思っているので、頑張って皆さんに想いをお届けしたいと思います。一緒に登壇するどなたも素晴らしい方々ばかりなので、本当に嬉しいです」

社会起業家を体現する人たち

▶【第2位】増加する社会課題に対して、解決の新しい仕組み作りを目指す「リディラバ」

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 ICCスタンダードである「全員真剣」を体現しているリディラバ安部 敏樹さんは、テレビでも名前の知れた有名人といっていい方だが、ICC小林とは旧知の仲。2016年のプレゼンから実に7年ぶりの登壇、それもセッションスピーカーではなくカタパルトのチャレンジャーを選択した。

オフィスでの小林とのリハーサルやプレイベントにも足繁く通い、本番を控えた今も、声をかけるに憚られるような集中度でプレゼンのスライドに見入って練習をしている。

有名人だからといって、事業が容易になるわけではない。上のプレゼンの中でも「死ぬ気でやってきました」というスライドがあったが、ものすごい情報量の詰まった7分間のプレゼンでは、NPOが減っている現状を踏まえて、社会課題解決を仕組み化するためのインフラが提案された。

▶【第3位】中小企業も非正規社員も加入しやすい企業年金で、老後の資産形成を助ける「ベター・プレイス」

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中小企業も非正規社員も加入しやすい企業年金で、老後の資産形成を助ける「ベター・プレイス」(ICC KYOT... ICC KYOTO 2024 ソーシャルグッド・カタパルトに登壇いただき3位に入賞した、ベター・プレイス 森本 新士さんのプレゼンテーション動画【中小企業も非正規社員も加入しやすい企業年金で、老後の資産形成を助ける「ベター・プレイス」】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

カタパルト・グランプリで4位に入賞したベター・プレイス 森本 新士さんは、市井の人々の資産形成を助ける企業年金のサービスを作っている。ソーシャルグッドではランクを上げて3位に入賞した。非正規雇用が4割に迫る現在、真面目に働く人々の老後をサポートするサービスだ。

森本さん本人もプレゼン中に感極まるほど「まっとうに生きている人がお金の心配をしなくてすむ世界を作りたい」という原体験は切実なもの。国の制度が追いつかない時に、その解決の実績で、社会課題の大きさを示すというのも起業家の大きな役割のひとつである。

メンタルヘルスから日本の課題を解決する

▶【第4位】誰もがメンタルヘルス・ケアにアクセスできる社会を目指す「マイシェルパ」

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「メンタルヘルスは人間の一番重要な部分だと思います。それをどう解決していくかというのは本当に重要な社会課題で、それをオンラインを使ってやっていくのが絶対に実現すべき未来」と言うのは、マイシェルパ 松本 良平さん。

「メンタルダウンを起こしてからだとどうしても厳しくなる。オンラインで早め早めに対応していく、かつ人の人生を左右するサービスだからこそ専門のプロフェッショナルが責任を持ってやるというコンセプトでプラットフォームを運営しています。日本ではまだメンタルヘルスの領域は本当に温度感が低い。

僕は医療法人とマイシェルパと両方運営していますが、医療法人には患者さんがいらっしゃいます。メンタル的に何か問題を抱えたらクリニックに行くという行動はみんな取るけれど、一方でその前に本来カウンセリングを受けるべきというところが、世の中に認知されていない」

てっきり医療施設に行って、そこでカウンセリングを受けることが治療の第一歩かと思っていたと伝えると、「違います。メンタルに何か課題を抱えている時に、カウンセリングファーストという社会を作っていかないと医療だけでは解決できない。メンタルを病む人は減らないです」。

課題の大きさが見えているからこそ、
マイシェルパはインパクトIPOを目指す

それから松本さんは、今の日本の働く世代の健康について教えてくれた。

「先進国は医療制度が整っており、病気やケガは治療できるので、基本的な健康課題はほぼメンタルヘルスとその予備軍です。罹患数が一番多いのはがんですが、すぐに命に関わるのはほとんどメンタル。糖尿病や高血圧になっても仕事を辞めないですが、メンタルはそうはいきませんよね」

人口減による労働力の減少はいうまでもないが、それがさらに弱まるとなると、DX導入といっても代替できることは限定的で、労働力不足は深刻化する一方、病んだ人を癒す方策も求められる。

「そうなんです。だから合理的に考えればメンタルヘルスをケアするのは一番正しいはずなんですが、なかなか温度感がまだ低い」

その訴えはNPOや投資家たち審査員に大いに響き、松本さんは4位に入賞。きっとさらに事業にドライブをかけていくに違いない。

「まちを背負って生きるのは楽しい」

▶【第5位】生まれ育った地域の衰退を止めたい! 地産ホップの「ASOBI BEER」で京都・丹後から挑戦する「ローカルフラッグ」

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ローカルフラッグ 濱田 祐太さんは、DAY1でSAKE AWARDに出展、予選ラウンドを突破できなかったためDAY2はその審査員に回り、最終日のDAY3でこのカタパルトに登壇。28歳、やる気に満ち溢れた明るいキャラクターで、初参加ながら一緒になった起業家たちから可愛がられている。

「SAKE AWARDで敗退して悔しい思いをしたので、今日こそ結果を残して帰りたい。ここにいらっしゃる皆さんと一緒に産業を作る機会にするために、プレゼンで思いを伝えて、しっかり頑張りたい。

衰退していく地元をなんとかしたいというので起業したので、地域が衰自分で産業を作らなければいけないと、地元のホップを使ってビールを造った。それを売って人を呼び込んで、収入を獲得して、町に投資していくことをやりたい。ありがたいことに、全国各地で販売していただけるようになりました。

スーパーやコンビニで買った人が、わざわざ訪ねてきてくれたり。我々の工場は与謝野駅前なのですが、周りにも少しずつ新しい店ができそうな雰囲気が出てきました。この流れが盛り上がれば、駅ももしかしたら改装、という流れができていて。

何もない若者かもしれないけども、リスクをとってチャレンジすれば、地域は少しずつ変わっていくという手応えを自分の中で感じています」

答えは明白だが、大変だけど楽しいのでは?と聞いてみた。

「楽しい! まちを背負って生きてる、勝手に背負ってるだけですけど(笑)、本当に代え難いやりがいがあります」

就活もしたけれど、結局地域のために何かやりたいと思い、今がある。

「若くて、一番チャレンジしやすい年齢だからこそやろうと思った」

お酒と地域活性というとICCで一番に浮かぶのが、今回のクラフテッド・カタパルトで優勝した稲とアガベの岡住さん、丹後といえば、同じくクラフテッドで過去優勝した飯尾醸造の飯尾さんと、KUSKAの楠 泰彦さんもいる。

「諸先輩方は優勝していて、頑張らなきゃなと思います! 人口10万人しかいないのに、ICCに3人来ているのはすごい。地元が好きな人が多いのが丹後の魅力じゃないかな」

のびのびと話す様子に、先輩経営者たちから可愛がられている理由がわかった。最後に初参加のICCの感想を聞くと、思いがけず、次なる挑戦への意欲を聞くことになった。

「こんなに持って帰れるものがたくさんある会だなんて思いませんでした。

入賞はできなかったけど、SAKE AWARDは自分自身がどんなものづくりをしていくか、改めてちゃんと向き合わないといけないと、ちゃんと気づけたのが大きかった。ビールだからしょうがないよねはない。ただ実力が足りなかったから負けたと思ってる。

いろんなお酒がある中で、ビールはもっと個性を出したり、尖らせていくことができる。売る視点だと、飲みやすいとか、おかわりしやすいという視点になりがちだけど、そうじゃない視点でビール造りに立ち返って、個性を出すとかしてみたい。半年後、1年後に今回の学びを得て、パワーアップして戻ってきたい」

“社会に必要なもの”を発見して実現する起業家たち

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誰にでもありそうな出会いから、事業を始めたサンカクシャ荒井さん

「トー横キッズ」「ライバルは闇バイト」と、冒頭からタイムリーな話題を掲げたサンカクシャ荒井 佑介さんは、この道16年。悲惨な背景を持っていたり、親を頼れない若者たちに居場所を作り、仕事の体験を提供する活動をしている。設立5年で約450人の若者をサポートし、約半数が自立という実績を誇る。

荒井さんたちは居場所がなく、道を踏み外しそうになっている若者をサポートしているだけではなく、安全な社会の維持にも間接的に貢献している。人によって社会は作られるが、その社会はセイフティネットを備えた人と人とが助け合えるものであれば、安心して暮らすことができるからである。

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順番が決まるコンテストの形はプレゼンのレベルを上げるが、順位が全てではない、というのは審査員たちもよく言うことだが、そこにこだわって、熱心にプレゼン練習を重ねていたのはMamaWellの関まりかさんだ。スタートアップとソーシャルグッドの両方に登壇して、妊婦社員のヘルスケアが当然の権利で、企業は働きたい妊婦社員をサポートすべきことを伝えた。

ジェンダーの問題ではなく、新しい命を抱えた人間を大切にするという話である。カタパルト終了後、顔を合わせた関さんは「入賞できなくてごめんなさい」と謝った。どこかで報われることを願わずにはいられないほど真剣な関さんを見てきたので、この結果は関さんが現在、日々直面している壁を表しているようで、悲しかった。

どちらのカタパルトも、客席の1列目では、幼い娘さんと義理の母親が関さんの登壇を見守っていた。「子どもなりに何かを感じているみたいです」と言う。登壇後の関さんに熱心に話しかけていた審査員もいて、それが嬉しかったとも語っていた。ここで入賞しなくても大きく成長する企業はたくさんある。働く妊婦社員のインフラを作ろうとする熱意が関さんにはある。

 少子高齢化が進む社会で、それに対応する事業がこのカタパルトにはコンスタントに出てくる。支援制度があるだけ良いとも言えるが、一律の制度というのは一長一短なもの。ノーベルの長谷 亜希さんは、ありそうでなかった、夫婦に寄り添うパーソナライズ子育て支援のサービスを提供する。

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「私たちのやっていることを知らない人が多いので、一人でも多くの方に伝えたいと思っています」

 こういうものが世の中にあればいいのに、というサービスは、このカタパルトに集中している。学生起業家のmairu tech 田上 愛さんもそんな事業を作る一人だ。救急車を呼ぶまででないが、タクシーでは足りず、車椅子やちょっとした医療ケアのできるスタッフの介助が欲しい、そんな移動手段を提供している。

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「この3日間、いろんな方々と話をして本当に様々な学びがありました。一緒に新しい未来を作っていけたら」と言う田上さんは、事業の先にあるよりよい未来を確信している眼差しだった。

無形の価値・文化を創造する

「ICCは若干場違いかも、と思っていたのですが、知っている方もいて、昨晩のCo-Creation Nightでは地方創生についていろんな方と話して刺激になりました」と言うのは、旧三福不動産 山居 是文さん。小田原に魅力的な物件や店舗を次々と作っている。

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東京にも通勤可能な小田原に住みたい、自分の店を開きたい、素敵な古民家に住みたい、不動産を売買するなど、ウェブサイトは、小田原暮らしの夢が広がるようなメディアとしても機能している。その情熱の根源は地元愛?と聞くと…。

「昔はあったと思うのです。今もないわけじゃないけれど、きっかけはそれでも今はシンプルに小田原に新しいお店ができるのが嬉しいとか、皆がいい店ができたと言ってくれることが、やりがいですね。

この先の目標みたいなのは色々あって、小田原がどこかに到達したら終わりではなく、1つ1つ増やしていくこと、それだけかなと思います。各地に支店を出していくつもりなので、横展開して、シャッター街から面白い店が増えていくといいなと思います。今日聞いてくださった方に、行ってみたいなと思ってもらえるのがゴールですね」

審査員席には、小田原の街歩きマップが配布された。これを手に、出かけた人もいるのではないだろうか? ICCサミットには本格的にまちづくり、地域活性に取り組む強力なプレイヤーたちが集結し始めている。

ICCではお馴染みの顔となったヤマチク山崎 彰悟さんも熊本県、南関町で竹の箸を手作りする、地域プレイヤーの1人。2023年、人口8,000人のまちに、毎月全国から1,000人もの客が訪れるファクトリーショップ「拝啓」をオープンした。

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竹取の翁が入る山もすぐ近くにあり、ファクトリーショップというだけあって、工場の真横にあるこのお店、行けばファンになること請け合いで、ものづくりの課題と素晴らしい技術を目の当たりにできると同時に、地域の課題に思いを馳せずにはいられない場所だ。

ICC FUKUOKA 2023特別プログラム決定! 熊本県南関市「ヤマチク」で、お箸作りの工場見学&箸作りを体験

カタパルトに挑戦すること3回目、今回、日本のお箸文化を守り世界に伝えていくというメッセージを伝えた山崎さんは、次のレベルにいる。カタパルト優勝経験者として、無形の価値である文化を伝えるというハイレベルな挑戦に挑んでいる。

ここだけで盛り上がっては絶対にだめ

「審査員というより、みんなが応援団。順位ではなく、いろんな形の支援や応援を提供していきたい」というアクサ・ホールディングス・ジャパン安渕 聖司さんの言葉に代表されるように、審査員たちは、11人のプレゼンに対して惜しみない賛辞を送った。

ボーダレス・ジャパン田口 一成さん「人間が持つ本来の一番強い力は、助け合うということだと思う。そういう人間のヒューマニティーが社会を良くしていくのだと思う。それがここに溢れているのを感じました。鬼丸さんがいうように、使命感や義務感じゃないかもしれないと思いました。

こういう希望を作りたい、こういう世界が見たい、したいという希望の話が全てだったと思うので、みんなでそれを追いかけていきたいと思います」

GO川鍋 一朗さん「最終日のここはICCのメインイベントですよね! 出雲さんの話から涙腺を緩まされて、泣きっぱなしでした。自分ができることを全力でやらせていただきます。サポーターの皆さんは、今が一番テンション上がってますから、早めにぜひコミットしてください」

ChEERS白井 智子さん「自分の事業に向き合いながら、日々こんなにやっているのに、年々課題が増していくとか、心が折れる瞬間があると思いますが、普段人を応援している皆さんだからこそ、こんなに応援されるのだと、今日はこんなに頑張ったと自分を褒めてください」

マザーハウス山崎 大祐さん「いろんなものを背負って今日ここに立っていると思いますが、前と違うのは、ゼロイチを突破して、これが社会に広げるべきモデルだというものばかりでした。それが今までのソーシャルグッド・カタパルトと全然違います。でも、ここからが大変なんですよね。

今日はめちゃくちゃ輝いて素晴らしかったけれど、明日から、みんな現場に戻ったら、現実に向き合う。それがしんどいのがわかっているので、ここにいる皆さんもぜひお手伝いしてほしいというか、僕もひとつでもお手伝いできたらと思っています。

ここにいる人たちは当事者だし、一番問題意識のある人たちですが、一番大事なのは、この外に広げなきゃいけないということです。興味のない人、僕らの周りにいっぱいいるじゃないですか。だからこれを自分ごととして持ち帰って、そういう人たちに絶対届けましょう。明日から声をかけませんか?

ここだけで盛り上がっては絶対だめなんですよ、こういう分野にお金が流れる仕組みを作る。正しいことをみんなやっているんですから。自分もそう思って事業をやっているけれど、そういうふうに広げていきたい」

「課題に無責任ではいられないと、心に火が点いた

    全ての登壇者の事業もこれからの社会に重要なものばかりで、優勝の行方は全く予想できなかった。優勝が発表された時、岡本さんは心底驚いた表情をして前方へ歩み出た。

【速報】アフォーダブルハウジング市場をつくり、母子家庭の暮らしを支える「LivEQuality大家さん」がソーシャルグッド・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2024)

岡本さん「いやあ、嬉しいです。皆さん、ありがとうございました。審査員の皆さんも本当にありがとうございました。

一番最初に出雲さんから日本の平均年齢は47歳だと、これからは若い世代の時代で、それより上の世代は変わらないと言われたと思うんですけれど、私、47歳なんです。

(会場笑)

それでちょっと心に火が点きまして、今の社会課題にもう無責任ではいられないと、我々の世代が課題を作ってきたところもあると思っているので、ここから皆さんとともに一緒にどう変えていくかにチャレンジしたいと思っています。

この1カ月、仲間にも迷惑をかけながら準備してきたものが、今日こうやって評価されたことが非常に嬉しいです。皆さんのプレゼンが素晴らしすぎたので、僕はちょっと自信がなくて、本当に選ばれているのが不思議なくらいです。

審査員の皆さんの眼差し、会場の皆さんの応援も本当に温かくて、皆さんの気持ちが伝わって、今日仲間とともにやり切れたことが何より嬉しいなと思います」

数々の優勝商品を獲得した岡本さんは、前回優勝の二人と写真撮影

涙はない。ここにあるのは、さらに強くなった課題解決への気迫と、世の中を変えようとし、それを応援する仲間たち。ソーシャルグッド第一世代の出雲さんは、これから数年がさらにソーシャルグッドに風当たりの強くなる苦しい時期だと伝えつつ、いつものメッセージを笑顔で「ボン・ボヤージュ、どうかよい旅を」というコメントで締めた。

 ICCサミットが目指しているのは「ともに学び、ともに産業を創る」ということ。しかし、今回の開催までは本当に、ソーシャルグッド・カタパルトからその予兆が感じられることになろうとは予想していなかった。

 山崎さんのコメントにもあったように、これが社会に広げるべきモデルという事業の萌芽がたくさん現れた今回、これこそが出雲さんが以前からずっと言い続けてきた、ミレニアル世代が中心となる時代の兆しなのではないか。そんな時代がやってこようとしているのだ。

 予感ではなく、本当に。そんなプレイヤーたちがこれからどんどん集結し、新しい時代を象徴するような場面が続々と見られるに違いない。プレイヤーたちが置かれる環境は未だ厳しいものではあるけれど、今回のソーシャルグッド・カタパルトは時代が変わる、節目のようなタイミングだったのではないか。思い出すほどに、そう考えられるのである。

(終)

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